出版社内容情報
私はおとうさんにユウカイ(キッドナップ)された! 私の夏休みはどうなっちゃうの!?
五年生の夏休みの第一日目、私はユウカイ(=キッドナップ)された。犯人は二か月前から家にいなくなっていたおとうさん。だらしなくて、情けなくて、お金もない。そんなおとうさんに連れ出されて、私の夏休みは一体どうなっちゃうの? 海水浴に肝試し、キャンプに自転車泥棒。ちょっとクールな女の子ハルと、ろくでもない父親の、ひと夏のユウカイ旅行。私たちのための夏休み小説。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
485
重松清氏が解説を書いているが、あまりに似つかわし過ぎて可笑しいくらい。何故なら本書は主題といい、タッチといい、読後感といい、そのことごとくが重松調で書かれているからだ。主題は、もう明らかに主人公の「私」(=物語の語り手)の成長物語である。そして、その成長を促したのは、なさけなく、万事に段取りの悪い父親である。そして、もう一つは日常を捨てて(キッドナップによって捨てさせられて)旅に出たことである。たとえ、それがわずか数日間であったとしても。全篇をなんだか、せつないペーソスが覆う。それは哀しみとも違うのだが。2018/09/25
さてさて
229
小説にはミステリーのように種明かしが目的の作品もありますが、そうではなく、作品全体の雰囲気を味わう小説があります。この作品はまさにその後者。二度と訪れることのない父と娘のかけがえのない二人だけの時間、父から娘に贈られたもの、娘から父に伝わったもの、そしてこれからも続いていくそれぞれの未来に続くもの。ほろ苦さと切なさがあたたかい感情の中に包まれて、みんな遠い日の想い出に変わっていく懐かしい感覚。ふと自分の父親との想い出の時間が作品のシーンに重なるのを感じた、とても味わい深い作品でした。2020/12/29
こーた
169
自分の子どもがなにを考えているのかさっぱり分からない、てことがあるけれど、子どもの側から見たら親のほうこそワケが分からない、てことなのかもしれない。突然公園へ行こうとか、かとおもったらもう寝よう、とか急に言い出したりして、勝手である。角田光代の文体は、主人公が光君であれ小学生の女の子であれ、独特のリズムというか空気感というか、それらが何とも心地よくて、もっとずっと読んでいたい!となる。2025/01/07
風眠
167
誘拐犯としては頼りなさげな父(別居中)と、人質にしては強気な娘(小5)、ひと夏の誘拐ごっこ。お互い伝えたいことは別にあるのに、ことばも態度も裏腹で、ほんっと素直じゃない。そんな不器用なふたりの愛情が、微笑ましくて切ない。誘拐の動機・要求の内容などは、最後まで明かされてはいないけれど、また家族一緒に暮らせるというような都合のいいことにはしなかったところに、作者の潔さを感じた。夏休みのどこか非日常な感じ、夏休みに出会って、いつのまにかいなくなってたあの子・・・遠い子ども時代、夏休みを思い出す、そんな物語。2013/03/23
おしゃべりメガネ
163
先日、角田さんの短編集を読了し、ふと本作を思い出して読んでみました。う~ん、間違いなくいい作品なんですが、どうしてか自分には思っていたほどココロに響かなかったです、残念ながら。普段あまり姿を見せない(見せれない?)ダメダメな父親と、ちょっとクールで生意気な女の子の’誘拐’旅行のお話です。とにかく父親のダメっぷりがどうにもハマらなくて、きっとコミカルに演出しているのでしょうが、自分にはイライラだけが残ってしまいました。娘も生意気度が時折、あがりすぎて温かいキモチにはなれず・・・でも、最後は感動できました。2016/06/28