出版社内容情報
ぼくが入社した村井設計事務所は、ひと夏の間、北浅間の「夏の家」へ事務所を移動する。そこでは稀有な感性をもつ先生のもと、国立現代図書館の設計コンペに向けての作業が行われていた。もの静かだけれど情熱的な先生の下で働く喜びと、胸に秘めた恋。そして大詰めに迫った中で訪れる劇的な結末。ただ夏が過ぎても物語は終わらなかった。かけがえのない記憶と生命の瞬きを綴る鮮烈なデビュー作。
内容説明
「ぼく」が入所した村井設計事務所は、毎年7月末になると、北浅間の「夏の家」に仕事場を移動する。その夏は、美しく居心地のいい建築を手がける先生のもと、国立現代図書館の設計コンペに向けての作業がピークを迎えようとしていた。静かな情熱を秘めた先生とともに働く喜び、密やかに進行してゆく恋。浅間山のふもとでのかけがえのない日々と、それぞれの生命の瞬きを綴る、鮮烈なデビュー作。読売文学賞受賞。
著者等紹介
松家仁之[マツイエマサシ]
1958(昭和33)年、東京生れ。編集者を経て、2012(平成24)年、長篇小説『火山のふもとで』を発表。同作で読売文学賞小説賞受賞。’17年『光の犬』(河合隼雄物語賞、芸術選奨文部科学大臣賞受賞)を刊行(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
のぶ
71
とても良い小説だった。描写が美しくて、こんなにも惹き付けられるのにストーリー展開が自然。読後感もすごく爽やかで気持ち良い。小説を読むとその世界があまりに非日常過ぎたり、作者の魂胆が見え透いてしまい、冷めてしまったり、入り込めないことが多い。けれど、全くそれがない。もちろんその世界は非日常なのだけど、誰もが心にもつ記憶にシンクロしてくるのだと思う。こんなに気持ちよくさせてくれた小説は久々だった。松家さんの本は初めて読んだが、ほかの作品も読んでみたい。2025/06/02
アーちゃん
47
2012年単行本、2024年文庫化。著者デビュー作。1982年「ぼく」が入所した設計事務所は毎年7月に「夏の家」へ仕事場を移動する。”「夏の家」では、先生がいちばんの早起きだった。”から始まるこの作品は国立現代図書館へのコンペという作業目標はあれど、淡々とむしろ静謐な雰囲気をかもす癖のない文章で事務所とぼくとの関わりや浅間山のふもとの自然情景を描いている。吉村順三という建築家が「先生」のモデルという事で、建築物や折り畳み椅子の写真をネットで見ながら読了。時間をかける甲斐のある良作。2025/04/06
niisun
35
実在した建築家“吉村順三”にインスピレーションを得て描かれた小説。丹下や黒川のような派手さはなく、シンプルで機能的な住宅建築という印象を持つ建築家です。似たような仕事をしているので、設計事務所で展開される設計作業やコンペの準備は興味深く読めました。作中で度々登場するスウェーデンの建築家“アスプルンド”。10年程前に陸前高田の復興祈念公園の計画をつくった際、アスプルンドの“森の墓地”を参考事例の一つに取り上げたこと、最終的には有識者委員の一人だった建築家の内藤氏発案のデザインが採用されたことを思い出すなぁ。2025/04/22
Y.yamabuki
22
ぼくは憧れの村井設計事務所に職を得る。毎夏仕事場を移す北軽井沢の「夏の家」での一夏が、ぼくの視点で描かれている。“先生”の出番は、そう多くはない。けれど、昔の話、年月を経ての先の話を含め、先生の思考が、好みがそこかしこに漂い、関わる人達の中にもある。建築も、土地もそのままではいられないけれど、形を変えながら思いは受け継がれ、心に愛おしいさと共に残っていく。北軽井沢の情景と共に、静かな優しさと一抹の寂しさを帯びた余韻が残る。 2025/06/13
kum
20
国立現代図書館(架空)のコンペに参加する建築事務所のひと夏を描いた作品。図書館としての機能と多様な人を受け入れるデザインを両立しようと建築家たちが重ねる議論が興味深く、そうそうと頷いたりそれはちょっと違うのではとも思ったり。そんな日常が続いていくように思えた中の最終章。終わりのない建築というものを心から愛する人から人へと受け継がれていく思いに触れ胸が熱くなった。北軽井沢の「夏の家」の涼やかな空気が伝わってくるような1冊。読めて良かったし、また読み直したいとも思う。2025/07/17
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