内容説明
明治後期、部落出身の教員瀬川丑松は父親から身分を隠せと堅く戒められていたにもかかわらず、同じ宿命を持つ解放運動家、猪子蓮太郎の壮烈な死に心を動かされ、ついに父の戒めを破ってしまう。その結果偽善にみちた社会は丑松を追放し、彼はテキサスをさして旅立つ。激しい正義感をもって社会問題に対処し、目ざめたものの内面的相剋を描いて近代日本文学の頂点をなす傑作である。
著者等紹介
島崎藤村[シマザキトウソン]
1872‐1943。筑摩県馬篭村(現在の岐阜県中津川市)に生れる。明治学院卒。1893(明治26)年、北村透谷らと「文学界」を創刊し、教職に就く傍ら詩を発表。’97年、処女詩集『若菜集』を刊行。1906年、7年の歳月をかけて完成させた最初の長編『破戒』を自費出版するや、漱石らの激賞を受け自然主義文学の旗手として注目された。以降、自然主義文学の到達点『家』、告白文学の最高峰『新生』、歴史小説の白眉『夜明け前』等、次々と発表した。’43(昭和18)年、脳溢血で逝去。享年72
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感想・レビュー
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ehirano1
205
「何かを得るには何かを捨てなければならない」の1つの形が本書でもあるのではないかと思いました。出自のようにガチャであるものはどうすることもできない。本書のように苦悩しながらも打ち明け新しい道へ向かう。一方で、闘うのもまた一つ。そんな選択肢を掲示しているようでもありました。2024/12/30
kaizen@名古屋de朝活読書会
197
中学、高校で勧められた読む。今一歩ピンと来てなかった。 何十年立ってから、再度読むと、当時の作家の中では、際立っているところを感じる。 文学が、社会とは異なる視点を提供しようとしていることを再認識。2014/05/27
ゴンゾウ@新潮部
144
人権問題の講義で必ず取り上げられる作品。部落出身者であることを隠し苦悩しながら教壇に立つ青年瀬川丑松と同じ境遇ながら身分を明かし活動する思想家猪子先生。中盤以降の猪子に告白できない丑松の心の葛藤と猪子の死に直面し告白ことを決心するまでは瞼が熱くなった。ただ残念なのは生徒への告白である。身分を隠していたことの懺悔に終わっている。本当は猪子のように身分を隠さないで生きていく決意でないか。もっと壮絶な作品をイメージしていたので、少し肩透かしだった。でもあの時代ではここまでしか踏み込めなかったのかとも思う。2015/05/05
優希
140
社会問題に鋭く切り込んだ名作だと思います。今でこそ意識しないものの、かつては部落差別というものが激しかったことを実感させられました。身分を隠さないと生活にも支障をきたしてしまうほどとはただ驚きです。だから出生を隠す必要があったのですね。しかし、同じ宿命の解放運動家との出会いにより父の戒めを破った結果、偽善社会の追放に遭うというのが何とも皮肉としか言えません。部落差別や身分差別という問題に真正面から向き合った作品として有意義だと思います。2016/08/30
納間田 圭
135
日本史の教科書に出ていた…余りにも有名過ぎの超問題作。舞台は…明治時代後期の信濃国長野県。士農工商の…その下とさせた〇〇の家系に生まれた青年教師。「隠せ」…それが故郷の父からの絶対の戒め。人として扱ってもらう唯一の手立ては…出生の秘密を隠し通すこと。「われは穢多なり‼︎」主人公の丑松(うしまつ)先生が…生徒たちの前で遂に戒めを破り、静かに語るシーン。そして…その事実を知った後の、周囲の人々の豹変ぶりは…読み応えあり。 もしかしたら…現代のイジメ問題の解決のヒントになるかも。なんて…感じた。2024/03/30
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