内容説明
「私、浮気をしてもよくって?」上流階級の躾の良い家庭に育った二十八歳の節子は、親の決めた男と結婚し子どももいたが、婚前に夫以外の男と唯一度交わした接吻を忘れられずにいた…。官能の目覚め、旅行先の裸の朝食、二度の妊娠、狂おしい嫉妬、鮮やかな性と生。姦通という背徳を犯しても、汚れることを知らない聖女・節子の不倫の辿り着く先は―。1957年、「よろめき」という流行語を生み、社会現象となった不倫小説。
著者等紹介
三島由紀夫[ミシマユキオ]
1925‐1970。東京生れ。本名、平岡公威。1947(昭和22)年東大法学部を卒業後、大蔵省に勤務するも9ヶ月で退職、執筆生活に入る。’49年、最初の書き下ろし長編『仮面の告白』を刊行、作家としての地位を確立。主な著書に、’54年『潮騒』(新潮社文学賞)、’56年『金閣寺』(読売文学賞)、’65年『サド侯爵夫人』(芸術祭賞)等。’70年11月25日、『豊饒の海』第四巻「天人五衰」の最終回原稿を書き上げた後、自衛隊市ヶ谷駐屯地で自決。ミシマ文学は諸外国語に翻訳され、全世界で愛読される(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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Roko
35
この小説が発表されたのが昭和32年(1957年)、当時たいへん評判になって「よろめきドラマ」という流行語ができたほどだったそうです。昼メロのはしりでもあるこの小説、世間の評判は高かったけれど、当時の女流作家たちからは「現実感がない」と不評だったというのはよくわかります。 三島由紀夫は一般受けを狙ってこの作品を書いたと言っていますけど、彼自身の心のよろめきもこの作品の中に反映されているような気がしてならないのです。2023/12/06
金吾
31
身も蓋もない話をきれいに書いており、よろめいていく状態の表現を楽しみました。夫婦というのは何なのかなと思いました。2024/01/29
Kepeta
21
不倫という題材を取りつつも、バレるんじゃないかとか痴話喧嘩になるんじゃないかとかの外面的事件は起こらず、起こったとしても節子ひとりの身にしか降りかからない。三島由紀夫の普遍のテーマである「行動と認識の相剋」という観点では、一貫して節子個人の認識のみで話が終始するのが面白かった。作中で美徳美徳と言われてもいまいちそれが何を指すのかピンと来なかったが、美徳=認識と解釈すると、行動によって認識が揺らぐので美徳のよろめきという事かと捉えた。節子以外の人物描写が浮気相手の土屋ですら陽炎のように曖昧なのが耽美です。2022/06/01
ふくしんづけ
12
〈人間が恋しいなどと思ったのは嘘だったのだ。何か小さな、一つの新鮮な幻影が欲しかったのだ。〉それはたしかに、三島を読むときそう感じていることであった。そして、自分自身にそういうところがあるのだと、認めざるを得ない。暴かれていることを。〈節子は道徳的な恋愛、空想上の恋愛を始めようと思ったのである。〉〈どんな邪悪な心も心に留まる限りは、美徳の領域に属している、と節子は考えていた。〉元はそんな遊戯であったような、どこかの舞台に立っているのだと言い聞かせていたような、そういう感じもする。2022/05/10
ひと
9
生まれもしつけもいい節子夫人が同い年の青年と不倫の関係になっていく話しですが、耽美主義というんですかね、官能とか肉欲とか快楽の内容が多くてまるで官能小説みたいだなと感じました。2022/09/25