内容説明
海難事故で幼い子供を失った夫婦。不幸に直面した衝撃と怒り、悲嘆からの逃避、忘却のはじまり、そして―喪失の後の心情を克明に追う「真夏の死」のほか、川端康成に評価され作家デビューのきっかけとなった「煙草」、レズビアニズムを扱った先駆的で官能的な「春子」など、短篇小説ならではの冴えが際立つ11篇を収録。著者による解説も付した自選短篇集。
著者等紹介
三島由紀夫[ミシマユキオ]
1925‐1970。東京生れ。本名、平岡公威。1947(昭和22)年東大法学部を卒業後、大蔵省に勤務するも9ヶ月で退職、執筆生活に入る。’49年、最初の書き下ろし長編『仮面の告白』を刊行、作家としての地位を確立。主な著書に、’54年『潮騒』(新潮社文学賞)、’56年『金閣寺』(読売文学賞)、’65年『サド侯爵夫人』(芸術祭賞)等。’70年11月25日、『豊饒の海』第四巻「天人五衰」の最終回原稿を書き上げた後、自衛隊市ヶ谷駐屯地で自決。ミシマ文学は諸外国語に翻訳され、全世界で愛読される(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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キムチ
56
三島1946~1963の短編集。「真夏の死」以外はショート。11編は何れもシニカル、スノビッシュ。もし「近代国語」なるカテが出来たらトップクラスの教材・・だろうけど好き嫌いは分かれそう。「貴顕」はこの作品集に流れるモチーフを昇華させたかのようだ。上げ連ねて語れないが・・「真夏の死」は映画になりそう。結婚し、3児の母である朝子 何不自由のない身分。夫の姉を伴い出掛けた海岸で不慮の事故が 老嬢と2児を亡くす。全体的に昏い雰囲気ながら陽光を浴びた海岸の明るさと対比的なイメージで展開していく。お定まりの不安定な→2025/02/20
けぴ
46
『憂国』に続く自選短編集。ミステリー風の『クロスワード・パズル』、ショートショート風の『雨のなかの噴水』が好みでした。しかし圧倒的な1番は『真夏の死』。伊豆今井浜であった実話を基に作った話のようです。三人の子供を連れて海水浴に来た母親。義理の妹に任せたところ、妹が心臓発作を起こし、その間に上の子供2人も溺れ死ぬ。残った末の子と夫の三人家族のその後の再生の人生を描く。本作のみを目的で本書を読んでも十分な力作でした。2021/12/28
たぬ
23
☆4.5 11編はどれもみな粒ぞろい。20代の頃に書いたものはどれもレベルが高いけど、中でも「春子」「サーカス」「真夏の死」の3作は静かなる狂気とでも言おうか、下品さのないエロスと言おうか、とにかく読んでいる最中ゾクゾクしっぱなしだった。やっぱこの人天才だわ…と再認識。だが「葡萄パン」はずるい。「ルービ」「ナオン」「ハクい」あたりはまだしも「海水ツンパ」は無理だよ。これ笑わないでいられる人いる?2024/05/01
ベンアル
18
三島由紀夫の短編集で本屋で購入。短編小説が11編あり、濃淡あって読み終わる頃には忘れた物語がいくつかあるが、この中でも春子、翼、真夏の死が良かった。解説を読んだ上でもう一度読んでみればまた違った読み方ができそうだ。2024/02/06
メルキド出版
12
「煙草」1946年発表の三島の文壇デビュー作。16歳の「花ざかりの森」の観念的倦怠さと比較すると、その幼少年期の精緻な記憶的描写は「確乎とした小説家がいた」ことを証明している。パターン化したエモの表象に陥りやすい未成年の喫煙も三島の手にかかれば再現前化を回避できるわけだ。文学とは過剰なパターンの模倣の反復で凡庸さに亀裂を生じさせる。保坂和志の「この人の閾」とも相関する手法に思えたが、三島は『仮面の告白』『金閣寺』で本作を凌駕した。保坂には「この人の閾」の先を行く長篇はまだ書けていないのではないだろうか。2023/01/18