内容説明
もはや恋愛と無縁だと思っていた料亭の女主人福沢かづは、ある宴席で、独り身の野口雄賢に強く惹かれた。熱情と行動力を備えたかづと、誇り高き元外相の野口は、奈良への旅を経て、結婚する。野口は請われて革新党候補となり、夫妻は選挙戦に身を投じることに。モデル問題で揺れた作品ながら、男女の浪漫の終焉を描いた小説として、国内海外で高く評価された。都知事選をモデルとし、日本初のプライバシー裁判に。
著者等紹介
三島由紀夫[ミシマユキオ]
1925‐1970。東京生れ。本名、平岡公威。1947(昭和22)年東大法学部を卒業後、大蔵省に勤務するも9ヶ月で退職、執筆生活に入る。’49年、最初の書き下ろし長編『仮面の告白』を刊行、作家としての地位を確立。主な著書に、’54年『潮騒』(新潮社文学賞)、’56年『金閣寺』(読売文学賞)、’65年『サド侯爵夫人』(芸術祭賞)等。’70年11月25日、『豊饒の海』第四巻「天人五衰」の最終回原稿を書き上げた後、自衛隊市ヶ谷駐屯地で自決。ミシマ文学は諸外国語に翻訳され、全世界で愛読される(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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キムチ
67
半世紀を経て再読とは言い難い・・脳内に政争、女将の凄まじさ位しか残っていない。読書は自ら食った飯に比例すると実感。もっとも閥絡み政争、東大は縁無しだが。まぁ、言わんとする意が把握でき、心情、描写の優劣を観られる・・と言ったとこ。実に面白い。上りが異なれども上り詰めんとする男女の紆余曲折。身体が近づいた半面、心が反れて行く宿命。政争に於ける、取り分け保守にあっては舞う札びらの桁がそれにざわめきを添える。かづの揺れ動く心情描写が巧み過ぎ。墓に入る妄想で凝り固まったのがするっと払拭され、命を賭してきた接待業に焔2024/10/11
けぴ
62
料亭の女将かづと都知事選に挑む野口の愛憎を描く中編。実際の出来事をモデルにしているとか。料亭を抵当にして必死に選挙資金をかき集めて、かづが東京中を駆けずり回るシーンが見せどころ。ラストは選挙に敗れた野口を捨てて料亭再開に向けて再出発するかづ。平成〜令和の時代なら、かづ自ら選挙に立ち上がったんでしょうね。三島文学の中では珍しい血の通った作品でした。2021/06/15
とくけんちょ
52
憲法でいうプライバシー裁判の対象となった小説らしい。内容としては、かづという料亭の女将が老政治家と恋に落ち、選挙戦にのめり込んでいく。選挙そのものの魅力が伝わってくる。自分の人生や人脈や金や、培ってきたもの全てを注ぎ込んで戦う。総合力で勝利をもぎとる。潔癖では勝てない。そういった対比を男女の生き様を通じて描き出している。2022/09/20
NICKNAME
41
この作品は自分が今まで読んできた三島作品の中でも異色である。いつものあの深い心理学的、哲学的なキャラクター分析記述が無く非常にシンプルで短く読み易いです。三島作品と知らされないで読めば三島のものとは思わないだろう。実在の人物をモデルにしたとされる、野口というキャラクターを通して明治時代エリート外交官の持つ似非西洋価値観を三島は嘲笑しているようにも思うのです。また野口の妻になるかづという人情系バイタリティーの塊で実利主義のキャラクターとの対比がとても面白いです。2022/01/29
さばずし2487398
40
男女の情なんて遠い話…などと冒頭で宣っていたかずが野口にはまっていく嫉妬の様が凄い。その後に政治活動にハマって行く様ももっと凄い。ここまで来るとかずは夫の為というより自分の人生にハマっていくという方が相応しい。その後に来る宴のあと。かずの選択はやっぱりかず。前半のお水取りと最後のかずの目の前の風景のリンクが素晴らしい。そして作者の相変わらずの心理描写の表現力の精緻さ。こんな女にハマる人は本当にハマり切るのだろうな。2023/04/28