出版社内容情報
敵は父親だった。親子の免れがたい葛藤と許しの軌跡を描いた傑作。【読み継がれて80万部突破!】
主人公順吉は父の京都来遊に面会を拒絶し、長女の誕生とその死をめぐって父の処置を憎んだ。しかし、次女に祖母の名をかりて命名したころから、父への気持も少しずつほぐれ、祖母や義母の不断の好意も身にしみ、ついに父と快い和解をとげた……。肉親関係からくる免れがたい複雑な感情の葛藤に、人間性に徹する洞察力をもって対処し、簡勁端的な手法によって描写した傑作中編。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ykmmr (^_^)
137
「言わずもがな。」の彼の時点的小説。『暗夜行路』と同じく、展開はゆっくり。簡単に言うと、例え『親子』であろうと、拗れた紐をほぐす事は難しい。んで、自分の気持ちに正直な2人で、それが余計に強調される。まあ、簡単に『仲直り』されたら、こちらも読む醍醐味はなく、志賀文章に引き込まれて読まされる事もなかろうが。結局『暗夜行路』と同じ、文章を読まされ、展開に納得させられてしまうのである。父子の『和解』は時間を有しても、その『告白文』はさらっと行ったのだろう。それに、作者自身も『父』として、困難がある。2022/05/26
まふ
127
二十年前、朝の通勤電車内で読書中に思わず涙を流した経験の一冊がこれであることを突然思い出して忙中閑的に読んだ。内容はすっかり忘れていたため新鮮ではあるが、風景は全くの私小説風景であり、いかにも志賀直哉的世界だ。父親との感情の突っ張り合い、もつれ合いをお互いに不自由だと感じてはいるが、プライドがぶつかり合って言い出せない状況を乗り越えて、ついに息子の自分から申し入れたところでの父親が流した涙が読み手の自分の心にグッと来たのだと思う。もう一度読む機会はなかろう。2024/01/14
mura_ユル活動
124
先日、奈良の旧志賀邸を訪れ、何か読もうと思った。主人公順吉、父との不和からの和解。p36からp62までの赤児(女の子)の急変から亡くなるまでが辛かった。描写が細やかで引き込まれた。父と和解後、我孫子の家に帰って妻の「お目出度う」にホッとした。我孫子の家を去る父の「或る表情」は作者は描写はしていないけれど想像した。2019/09/13
bura
83
「昔の名作を敢えて手に取る」4冊目。父との長い不和、主人公の順吉は麻布の実家から我孫子の地に移り住み、そこで長女を授かるも不幸にして亡くしてしまう。益々父との仲は悪化し具合の悪い祖母の面会もままならなくなる。所が次女が産まれた事で父に対する思いが変化していく。長女が亡くなる迄の哀れな猫写と次女が産まれる命の誕生を見つめた主人公の心の喜びがとても伝わって来る。父との葛藤は同族嫌悪であり、誰もが通る道かも知れない。順吉は我が子の死と誕生を持って、それを克服して行った。父子の心の彷徨いと和解。良き物語だった。2024/05/26
西野友章
55
志賀直哉の自然な文章が心地いい。ここでの順吉(志賀本人)は、漱石の「それから」の代助のそれからみたい。父と子の隔壁、新旧の家族観の違い、妻に対する接し方、など代助と共通している。でも漱石より文章の歯切れがいい。ありのままの自然な言葉に、志賀の人となりが出ているように思う。情景描写や心情表現もさすが。特に長女さと子に対する懸命な延命や次女留女子の出産シーンなど、順吉が命に関わる場面は惹きつけられた。それにしても親子の不和がこれだけ周囲に影響を与えるのは、家族との繋がりが濃密な時代だからなのか。 2018/07/15
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- 和書
- 夕暮れ密室 角川文庫