内容説明
猥、嘲、凶、呪…不穏な文字が並ぶ詩と出会い、著者は賢治の本心を探り始めた。信心深く自然を愛した自身をなぜ「けだもの」と呼んだのか。醜聞にまみれ病床でも自己内省を続けた妹の姿に何を思ったのか。名作『銀河鉄道の夜』の中にどんな欲望を秘めていたのか。緻密かつ周到な取材による謎解きの果て、修羅と化した賢治の“真実”に辿りつく。執念が実った圧倒的ノンフィクション!
目次
第1章 謎の文語詩
第2章 「妹の恋」という事件
第3章 そのとき賢治も恋をしていた
第4章 「春と修羅」完全解読
第5章 ついに「マサニエロ」へ
第6章 妹とし子の真実と「永訣の朝」
第7章 「銀河鉄道の夜」と怪物ケンタウルス
終章 宮沢賢治の真実
著者等紹介
今野勉[コンノツトム]
1936(昭和11)年、秋田県生れ。東北大学文学部卒。テレビ演出家、「テレビマンユニオン」最高顧問。’70年にラジオ東京(現TBS)を退社後、日本初の独立系テレビ番組制作会社「テレビマンユニオン」創設に参加。テレビ草創期から数多くのドラマやドキュメンタリーの制作に携わり、既成の枠を超えてテレビ表現を追求する。2020(令和2)年、NHK「宮沢賢治 銀河への旅」の演出と長年にわたるテレビへの貢献が評価され、第61回毎日芸術賞特別賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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へくとぱすかる
77
カムパネルラは果たして誰なのか。数十年にわたる研究のある、宮澤賢治とその作品の背景を、著者は改めて調査、実証していく。その徹底ぶりと論理はミステリも顔負けだ。驚くしかない。気象条件・新聞記事・生家の平面図などなど。今までの研究が急にかすんで見えるほどすごい。親友関係や賢治の妹さんのことを、今までいかに知らなかったか。そして結論は「銀河鉄道の夜」へと収束していく。圧巻です。意味不明にみえる表現にも、きちんと裏付けのあることがわかる。最も意外なのは、そうは書いていないが、音楽家・細野晴臣の祖父からの影響。2020/06/12
がらくたどん
53
去年読み友さんに機会を頂いて『イーハトーボの劇列車』を起点に賢治の銀鉄を巡る読書の旅を楽しんだのだが、その最後の一冊。ずっと見ないふりをしていた賢治の文語詩から展開する謎解きなので年内に収まらずようやくです♪考察は『文語詩百篇』の「朝」と「岩頸列」の間に挟まる無題の一編から始まる。「猥れて嘲笑めるはた寒き~」続く詩文には「凶」だの「呪」だのと穏やかではない。賢治に「聖人」のイメージを重ねていた著者は「はて?」と戸惑い、賢治の実像を探すために作品と書簡の森へと分け入っていく。人間賢治に逢える誠実な文学探訪記2025/01/20
南北
45
文語詩の「謎の言葉」から賢治自身と妹とし子のそれぞれの恋がどのような結果に終わったのかを緻密に解明し、それをもとに「春と修羅」や「銀河鉄道の夜」を解明していきます。一読しただけではよくわからなかったところが少しずつ見えてくるようになるところは興味深く読むことができました。これまでも「イーハトーボ農学校の春」のようにお話の間に楽譜が入るなど1つの枠に収まらない宮沢賢治の作風には好感を持っていましたが、本書により、また別の新たな視点が得られたと思います。2020/06/25
TakaUP48
40
「猥」で始まる謎の文語詩に出会い、5人目の賢治を探った本。今までのイメージとはかけ離れた賢治像に出会う。同性に恋焦がれる賢治、最愛の妹の修復不可能なスキャンダルなどが飛び出す。筆者の取材力と「場の再現力」には驚くばかりだ。当時の地図、詩に出てくる現場の風速や光景。「銀河鉄道の夜」の謎解きに、天空の星の配置再現や、タイタニック号の沈没に触れた内村鑑三の講演記録掲載の「聖書之研究」を集めるなど、資料と事実を付き合わせるという精力的な行動は、唯々驚くばかりだ。時に、真実を知ることは、切なく辛いこともあるものだ。2020/09/23
きーしゃん
36
小学校の恩師が面白いから読んで見てと届けてくださった。面白かった!今まで、賢治は神様のような聖人君子だと思っていたけれど、この本を読んで、どこまでも人間であったということがわかった。そして生み出された詩も人間味溢れるものだったのだ。詩集をめくっているが、一向に意味がわからない詩が多い。銀河鉄道の夜も然りである。賢治の人生から賢治の詩や物語を読み解くこの本は、解説書として、一番わかりやすいものではないだろうか。銀河鉄道の夜や詩に投影された想いを知ることができてよかった。としの生き様を知ることができたのも。2020/09/19