感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
237
第1回芥川賞(1935年度上半期)受賞作。タイトルの「蒼氓」は人民といった意味だが、この作品には、これという特定の主人公は存在しない。しいて言うならば、夏と孫市の姉弟だろうが、それとても群衆の中の一員に過ぎない。物語は900人余のブラジル移民団の居留地となっていた神戸を舞台に展開し、出発までを描く。現在、これを読む我々は、彼らのその後を知っているのだが、小説はライブな時間の中で語られていた。人々の運命を見据える作家の卓見というべきだろう。未知の地への不安と希望、哀しみや喜びが混沌とした感情の表出は巧みだ。2015/02/18
absinthe
205
貧農が日本の生活に見切りをつけブラジルに渡る。戦前の移民の物語。昨今、日本人の民度がとりわけ高いように言う人もいるが、当時はそうでもなかったのか。日本も貧しかったのだ。富国強兵を目指し、産業構造は激変。農家はますます貧しくなりつつあった。移民の様子は過酷。劣悪な収容所、渡航船、移民先。日本で見ていた夢は破れたが、それとは異なる幸福も。タッチの差で恋がかなわなかったお夏がすべてを表しているのか。2021/10/25
kaizen@名古屋de朝活読書会
126
【芥川賞】第一回。ブラジル移民の日本から出港するまでの話。国立海外移民収容所という事前検査と待ち合わせをする場所。それぞれが事情を持った人間の集まり。芥川賞が時代を映し出す鏡だという性格を濃厚にした。太宰治の逆行が落ち、予選で瀧井孝作が「道化の華」を落としたという。文学賞の難しさの始まり。2014/03/24
おか
80
第一回芥川賞受賞作。受賞したのは第1部蒼氓。第1部は1930年ブラジル移住希望者が神戸の移住収容所に滞在した8日間の出来事を描写。著者自身1930年に移民の監督者としてブラジルに渡り 数ヶ月後に帰国。1部では全てを擲ってブラジルへの移住にしか夢を見出せない人々の姿がきめ細やかに書かれている。第2部は移住船での45日間の船中生活。3等室に約1000人の人間が押し込まれ 明日への不安を押し隠し 希望に縋り付こうとする人々。第3部は ブラジルに到着し 入植後の数日間を描いている。久し振りに日本文学を堪能した。2018/05/09
ゆのん
75
【芥川賞】記念すべき第1回受賞作品。『氓』には流浪する民という意味があるらしい。物語は3部構成になっていて、日本では食べていけない人々がブラジルへと向かう内容。一生の中で同時に2つの人生を経験する事は出来ない。日本で耐えるのか、異国で耐えるのか、どちらが幸せだったのだろうと考えてしまう。かなり昔の作品だがとても読み易く名作だと思う。1882020/08/05
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