出版社内容情報
智に働けば角が立つ――思索にかられつつ山路を登りつめた青年画家の前に現われる謎の美女。絢爛たる文章で綴る漱石初期の名作。
内容説明
智に働けば角がたつ、情に棹させば流される―春の山路を登りつめた青年画家は、やがてとある温泉場で才気あふれる女、那美と出会う。俗塵を離れた山奥の桃源郷を舞台に、絢爛豊富な語彙と多彩な文章を駆使して絵画的感覚美の世界を描き、自然主義や西欧文学の現実主義への批判を込めて、その対極に位置する東洋趣味を高唱。『吾輩は猫である』『坊っちゃん』とならぶ初期の代表作。
著者等紹介
夏目漱石[ナツメソウセキ]
1867(慶応3)年、江戸牛込馬場下(現在の新宿区喜久井町)に生れる。帝国大学英文科卒。松山中学、五高等で英語を教え、英国に留学した。留学中は極度の神経症に悩まされたという。帰国後、一高、東大で教鞭をとる。1905(明治38)年、「吾輩は猫である」を発表し大評判となる。翌年には「坊っちゃん」「草枕」など次々と話題作を発表。’07年、東大を辞し、新聞社に入社して創作に専念。『三四郎』『それから』『行人』『こころ』等、日本文学史に輝く数々の傑作を著した。最後の大作『明暗』執筆中に胃潰瘍が悪化し永眠。享年50(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
馨
320
美術が得意だった友人から勧められて読みました。夏目漱石さんの作品をまじめに読んだのが初めてだったのもありますが、短い物語なのに非常に時間がかかりました^^;内容も、私には難しい点が多かったです。。ただ最後に日本の平和を動物園の檻にたとえることや文明は発展するごとに人を締め付けている。。みたいな表現は現代人に対して訴えているようで当時その考えが出来た人は少数派だったんじゃないかと思いやはり夏目漱石さんって凄いんだと思いました。2013/08/13
夜間飛行
309
第三者の立場から〝非人情〟な画を描こうと旅する画家の前に、出戻り美女の那美さんが現れる。画家は彼女をオフェリアに擬し、《余は余の興味をもって風流な土左衛門を》描こうとするが、気の強い那美さんには憐れが欠けていて画にならない。小説の終わり近く、出征する従兄弟に「死んでおいで」と言葉をかける那美さん。その直後に、満州へ行く先夫の出現に不意を衝かれて憐れを浮かべ、ここで漸く那美さんの画が成就する。芸術が完成したのはめでたいが、直前の「死んでおいで」という一言が頭から離れず、那美さんという人はやっぱり謎のままだ。2023/12/23
まさにい
239
冒頭の文が有名なので既読と思っていたが未読だった。なんかいい感じの印象。それで色々調べてみる。漱石がまだ専業作家になる前の作品。そして親友である子規が死んでから少しったっての作品。漱石は帝大では八雲の後を受け持つ。また八雲復帰運動が学生から起こっている。更に帝大で職に就くにつき他の者とその地位を争ってもいた。とすると、山道を非人情(ここでは、世間との接触を避ける意)を求めて漂白するのもうなずける。また、主人公は画家なのに短歌や漢詩を作っているのは子規への思いからかもしれない。浄瑠璃的表現は難しかったが…。2016/12/19
Major
233
有名な冒頭の一節はもちろんのこと、人物の一挙手一動の精緻な描写とそれを可能にする日本語の豊かさに感銘を受けた。一個の人間存在(画工・・漱石自身でもある)の刻一刻と移ろいゆく意識を、主体(主観)と客体(客観)の間を揺れ動く一つの運動として捕らえる辺りは西洋哲学の影響であろう。それ故、壮年期の漱石はすでに純粋なる主体などどこにもなく、人間(世間)という関係性の中でのみ主体的であり得ることに気づいている。(ここまで岩波文庫版のレヴューに同じ)岩波版に加え、江藤淳、柄谷行人の解説が欲しく購読。3つのコメントへ続く2020/05/07
のっち♬
228
山奥の温泉宿で才気溢れる女性と出会った青年画家を通して芸術論などが披瀝される。「智に働けば角が立つ。情に棹せれば流される。意地を通せば窮屈だ」—特定の主義へ傾倒する芸術や「不人情」な世間に対する著者の不快感が反映された作品で、絢爛な語彙で多彩に織られた文章は言葉の持つ表現の可能性を奔放に例示している。中でも風呂場の情景の流麗で掴みどころのない湯煙の様な抽象表現の連発は圧倒的。非人情の美学を貫きつつ憐れみを求めるラストシーンは著者の趣意がうまく体現されている。智、情、意、どれも決して不要なものではないのだ。2021/01/20
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