内容説明
高校卒業後、大阪から上京し劇団を旗揚げした永田と、大学生の沙希。それぞれ夢を抱いてやってきた東京で出会った。公演は酷評の嵐で劇団員にも見放され、ままならない日々を送る永田にとって、自分の才能を一心に信じてくれる、沙希の笑顔だけが救いだった―。理想と現実の狭間でもがきながら、かけがえのない誰かを思う、不器用な恋の物語。芥川賞『火花』より先に着手した著者の小説的原点。
著者等紹介
又吉直樹[マタヨシナオキ]
1980(昭和55)年、大阪生れ。吉本興業所属のお笑い芸人。コンビ「ピース」として活動中。2015(平成27)年、「火花」で芥川賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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こーた
264
ぼくもかつてはこんなことを考えていたのかなあ、と思い出してつらくなる。若いころの失敗や葛藤、悩みとか甘えとか拙さとか幼稚さとか、それらはいまもかわらずぼくのなかにあるのかもしれないけれど、そういうものが余すところなく、書かれている。感情を出すには訓練がいる。こういう場面では、怒ったり泣いたりするべきではないか。そう頭の中ではおもっても、実際はうまくできずに逆のことをしたりする。演劇も小説も、表現される世界と、実際の自分とのあいだにある隔たりを限りなくゼロへ近づけていく作業だけれど、それは人生だって⇒2019/10/15
かみぶくろ
108
読んでいて色んな感情がけっこう強めに去来した。ハラハラしたりイライラしたり嬉しくなったり悲しくなったり。そして、のめり込むように一気に読んでしまった。読後はセンチなカタルシス。それってつまりすごく良い小説だってことだと思う。変遷する自意識の表現がすごいと思うし、単純だけど先が気になってしょうがない物語の運びも良い。今後もこんな感じの太宰的自意識小説を追求していくのだろうか。愚直な印象のある作家だし、セルフイメージもあるだろうし、いきなり作風を変えるのは難しいのかも。2019/09/14
セウテス
99
本業だけでは生計が成り立たない自称演劇演出家と、恋人の沙希、彼らを取り巻く演劇関係者の人間模様だ。どの時代にもどの世界にも、全体的総意に引っ掛からない異端児はいるのだろう。それを天才とか偏屈、不適応などと呼ぶのだろうが、この主人公を私は無責任にしか思えない。主人公の生活は、太宰治の人間失格を読んだ時の様な、腹立たしさを感じる。そして沙希の姿に作者の理想の女性像と、人は計らずとも変わっていくものだという思いを感じる。作者の書く人の心根や文章のテンポが好きになったが、こいつではない違う人の人生を読んでみたい。2022/05/31
佐島楓
83
自意識が強すぎて生きづらく、劣等感から自分を愛してくれるひとさえも傷つけてしまう気持ちがよくわかってしまった。共感を呼べる文学作品だと思う。『火花』よりこちらのほうが好き。著者のネームバリューゆえ一瞬読むのをためらったが、読んでよかった。2019/09/12
鍵ちゃん
81
高校卒業後、大阪から上京し劇団を旗揚げした永田と、大学生の沙希。それぞれ夢を抱いてやってきた東京で出会った。公演は酷評の嵐で劇団員にも見放され、ままならない日々を送る永田にとって、自分の才能を一心に信じてくれる、沙希の笑顔だけが救いだった。理想と現実の狭間でもがきながら、かけがえのない誰かを思う、不器用な恋物語。「火花亅と全く違う。永田のクズ差もいいが、沙希の健気さに惹かれたな。2021/03/15