出版社内容情報
麻薬中毒と自殺未遂の地獄の日々――小市民のモラルと、既成の小説概念を否定し破壊せんとした前期作品集。「虚構の春」など7編。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
132
最初の作品集『晩年』を上梓した後くらいに書かれたもの。芸術への自信と、その一方では生きて行くことへの齟齬と。果ては「生まれてすみません」の述懐にいたる。自殺未遂など、太宰が精神的には大いに揺れ動いていた時期。また、「大いなる凡人」でもある彼は芥川賞が欲しかったようだ。「創生記」では、もう取ったかのような喜びよう。なんだか悲痛でさえある。結局、この時の芥川賞(第1回)は、石川達三の『蒼氓』に与えられ、太宰は落選の憂き目に。三島由紀夫も村上春樹も取れなかった。一方、取った大作家には大江健三郎や安倍公房あたり。2013/05/08
ムッネニーク
126
53冊目『二十世紀旗手』(太宰治 著、1972年11月、新潮社) 太宰治が1936年から1937年にかけて発表した、表題作を含む7編を収録。 20代後半だった太宰の苦悩や絶望が赤裸々に著されており、それは85年後の現代を生きる我々にも、身近な心の苦しみとして痛切に感じることが出来る。 描かれている内容は時代を越える普遍性を持っている。 しかし、この時期の太宰は精神的な混乱を抱えており、それが文章にも表れている。端的に言って、非常に難解で読みづらい作品集である。 「笑われて、笑われて、つよくなる。」2022/07/23
ゴンゾウ@新潮部
104
初期の短編集。心中未遂、薬物中毒、精神病院への入院と荒んだ毎日。憧れの芥川賞を逃した失望。もっとも不安定な時期の作品。ユーモアやウィットに富んだ文章は見られず太宰の苦悩の大きさがうかがえる。まさに極限状態で言葉を吐き出しているよう。太宰の作品の中でもっとも辛い。2016/09/17
青蓮
86
物凄く久しぶりに再読しました。「狂言の神」「虚構の春」「雌に就いて」「創生記」「喝采」「二十世紀旗手」「HUMAN LOST」7編収録。正直、ここに収められてる作品たちは難解で読み進めるのが辛かった。それだけ太宰本人もギリギリの精神状態だったのだろうと思われる。「HUMAN LOST」は彼の悲痛な叫び声を聞いた気がする。「死ねと数えし君の眼わすれず。」2015/09/11
Willie the Wildcat
84
死相感漂う作品群。他作品との絡みに妙。『雌に就いて』が前章となり、明の『狂言の神』と暗の『道化の華』。7年の歳月を経ても、死神がまとわりついているのか。過程の苦悩が『HUMAN LOST』と『喝采』。前者は自任する自失が切実だが、実朝の件は文学への思いが滲む。後者は自他に応えたいと自らを奮い立たせる。認知、これが『創世記』から垣間見る氏の願いであり、表題への誓いだったのではなかろうか。総括するのが『虚構の春』。様々な書簡が氏の半生・人柄を描写。印象的なのが山形氏。てっきり北氏と思い込んでいた。温かい周囲。2018/09/07