出版社内容情報
妻だけは、抱けない。夫以外の男に、溺れる。【谷崎のスキャンダラスな私生活を反映した問題作】
全てにおいて完璧だと思って結婚した女なのに、なぜ妻という立場になると、欲情しなくなるのだろう……。セックスレスが原因で不和に陥った一組の夫婦。夫は勝手気儘に娼婦を漁り、片や妻は夫公認の間男の元へと足繁く通う日々を送る。関係はもはや破綻しているのに、子供のことを考えると離婚に踏み切れない。夫婦を夫婦たらしめるものは一体何か。著者の私生活を反映した問題作。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
434
谷崎の小説群の中では、かなり異色の作品。初期の耽美的な小説(「刺青」等)とは当然大きく違うのだが、後期の『細雪』等の持つ淡々とした時間の流れともまた違っている。この小説は、多分に谷崎自身の体験に基づくようなのだが、そうだとすれば谷崎にとっての分岐点であったかのようにも思う。東京からの関西移住にも慣れ、大阪の浄瑠璃の良さ(かつては品がないように思っていたようだが)に魅かれてゆく主人公は、谷崎その人であったかもしれない。夫婦の奇妙な愛情生活を描くこの小説の味わいは、相当に玄人好みのものということになるだろう。2016/06/17
nobby
141
「君の云うことはどこまでも勝手だよ」まさにその通り!経済的に境遇的に甘々で暮らす男の好き勝手な想い… 離婚を決めていながら、いざ一歩を踏み出せない仮面夫婦。のらりくらり期間を「愛の試験時代」と呼ぶなんて…女というものは神であるか玩具であるかとのたまい、母婦型と娼婦型に分けて語るなど、今では許されじ会話に苦笑繰り返すばかり…谷崎自らの細君譲渡というエピソードを思い浮かべるだけに生々しい。義父が囲う愛人お久やなじみの娼婦ルイズに様々な愛の形を手弄する様も何とも哀れ…いや、結局『蓼喰う虫』との自虐に呆れる(笑)2021/10/10
優希
108
昼ドラの匂いの漂う背徳の物語と捉えてもいいと思います。夫婦でありながら妻を抱けない夫、夫以外の男に溺れる妻。それはまさに仮面夫婦であり、離婚という決断に踏み切れない苦さを感じさせました。異常で破綻した夫婦関係を修復することもなく、ただ日常は互いに作り出した関係の沼にはまっていく様子を淡々と状況描写に徹しているのが今ひとつ物語にスキャンダラスな雰囲気を漂わせず、静かな現実にのみなってしまう結果になっていると思います。外の視点にゾクッとするのは谷崎の私生活を反映した問題作という位置づけだからでしょう。2016/01/05
aquamarine
81
妻に外で不倫を許し、自分は娼婦を漁る仮面夫婦。離婚を念頭に置きながらも、お互いが距離を測り自分が傷つかない方法で新しい一歩を踏み出すべく静かに静かに時を選んでいる二人の様子がなんともむずむずする。それは全く理解できない、というのではなく妻側としてわかる部分もあるせいかもしれない。妻が着物を揃えるシーンなど殊更だ。妻の父とお久、要の関係の微妙さも落ち着かないが、相反するように丁寧に書かれる文楽のシーンも印象的。この時代の日々の細やかな様子、心の機微、やっぱり谷崎の文章はするっと入ってきて綺麗だと思う。2021/10/10
HANA
74
子供が生まれセックスレスに陥った夫婦の話。妻は恋人と逢瀬を重ね、夫は風俗で解消する。離婚は進んでいるものの子供の処遇で苦労する。今まで読んできた谷崎が濃厚な耽美やマゾヒズムに彩られていたものばかりな為、急に現代に通じる主題に読みながらしばし茫然とす。現代だとこういう夫婦実在するよね。むしろ作中で語られる人形浄瑠璃が強い幻想性を孕んでおり、そちらの方に興味が惹かれる。特に淡路の野天での人形浄瑠璃は、内容にも文章の質にも圧倒されるばかり。谷崎自身の体験が元になっているらしいけど、少々趣味には合わなかったかな。2020/02/18