出版社内容情報
旅の感動を率直に綴る「大和路」「信濃路」など、堀文学を理解するための重要な鍵であり、その思索と文学的成長を示すエッセイと小品。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
新地学@児童書病発動中
122
先日読んだ立原道造の詩集の中に中村真一郎氏のエッセイが含まれており、堀辰雄が芥川龍之介の自殺を乗り越えるために、芸術家として精進し続けたことが書いてあった。そのことは、本書を読むとよく理解できる。書斎に閉じこもるのではなく、旅に出て、人や自然に触れ合って、自分の心を開いていく態度を貫いたのだ。『大和路』は本当に美しいエッセイで、古都の光や風、人々、花の色を読みながら生き生きと感じ取ることができる。まるで古き良き日本を自分で旅しているような気持になった。俗に流されることがなかった堀辰雄の精髄を味わえる作品。2016/10/06
ちゃちゃ
119
『浄瑠璃寺の春』出会いは、高校時代最初の現代国語の授業で。その頃の私は、堀辰雄の名も浄瑠璃寺の存在も知らなかった。それなのに、この地味なエッセイは私の心に刻印され、春になると馬酔木の花咲く浄瑠璃寺を訪れてみたいと思ってしまう。山里の牧歌的な自然に溶け込むような静かな佇まいのお寺。見過ごしてしまいそうな山門の傍らに楚々と咲く馬酔木。「どこか犯しがたい気品がある(略)いじらしい風情をした花だ」と堀は書き留める。そして今まさに我が家の庭先で、やわらかな春風に揺れながら、可憐な馬酔木の花が慎ましやかに咲いている。2022/03/16
涼
75
http://naym1.cocolog-nifty.com/tetsuya/2022/01/post-d0cedc.html 「大和路」は知っているところが多いだけに、非常に親しみを感じます。2022/01/31
たま
48
読書メーターで見た浄瑠璃寺の馬酔木の花が懐かしくて手に取った。私(兵庫)は高校教科書で「浄瑠璃寺の春」を読んだと思うのだが、ツレ(愛知)は信濃路「辛夷の花」らしい。今読み返して堀が奈良ホテルに長期滞在し大和路を訪ね歩いたのは太平洋戦争中のことと分かり驚く。戦前とは思えない気取りのない素直な文章なのだが、ちょうど並行して読んでいた『我が愛する詩人の伝記』で犀星が堀辰雄の人柄の良さ-文章の良さに触れていた。堀辰雄にも犀星の随筆の批評があり、こちらも的確かつ温かい。『死者の書』をまた読もう、奈良を歩こうと思う。2022/04/21
いたろう
45
「堀辰雄 妻への手紙」を読み、旅先から妻、多恵子に出した手紙と「大和路・信濃路」の中の手紙風の文章の繋がりが気になって再読。改めて読んでみて、堀辰雄が多恵子に手紙を書いた昭和16年の奈良旅行が、「大和路・信濃路」に書かれている奈良旅行と同じときのものというだけでなく、多恵子に書いた手紙の中の表現が、そのまま使われていることに気づいた。何のことはない、「大和路・信濃路」の最初の章「十月」は、多恵子への手紙をもとに、それに加筆して書いたものとのこと。こんなことも、堀辰雄の創作の舞台裏を覗いたようで興味深い。2017/09/25