感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
みも
101
16~30頁前後の短編・7編。初期作品集で、全体的にインテリ・ブルジョアといった気障な雰囲気を醸し、死を意識した沈鬱さよりも清澄感が強い。解説に倣えば3分野に括られる。『麦藁帽子』『燃ゆる頬』は高校生時代の性の萌芽。『聖家族』『ルウベンスの偽画』『恢復期』はサナトリウムでの療養の影が滲む青年期。『旅の絵』『鳥料理』は趣を異にし、幻惑的で精神的カオスを表出。筆致は同一作家とは思えない程多彩で、自己スタイルを模索していた時代と言えそうだ。その中にあって、フランス心理小説の影響が色濃い『聖家族』は卓抜している。2019/11/22
ehirano1
80
「燃ゆる頬」について。青春期の性の萌芽は環境に依存する部分がかなりあるのではないかと思い始めました。2023/08/11
かぷち
70
比較的短文で「〜た」で終わるセンテンスの連続にリズム感があり、表現の持つ透明感も相まって、触れれば崩れてしまうような繊細さの奥に一本通った芯を感じる。堀辰雄さんは初読、凄い好みの文章です。短編集で全7篇収録されているが、少年期を描いた『麦藁帽子』がなんとも懐かしい気持ちにさせてくれ、抒情的で特に好き。『燃ゆる頬』はどこかに漂う生と死の気配(冒頭の花を毟り取るシーンが象徴的)、自己の性を意識する瞬間それを受け容れるか否かで揺れ動く葛藤が儚く、微熱に冒されている様にジワジワくる。2024/01/23
いたろう
42
(再読)処女作である「ルウベンスの偽画」の他、「聖家族」「燃ゆる頬」「麦藁帽子」等、初期の作品を集めた文庫版。「ルウベンスの偽画」は処女作だが、美しい文体と繊細な心理描写により、既に堀辰雄が完成している。思えば、その昔、この作品を読んでルウベンスの名前を知り、絵画をみて好きな画家になった。いまだにルウベンスの絵を見る度に堀辰雄を思い出す。堀辰雄の作品にはこの他にも、「聖家族」でのラファエロ等、ルネサンス、バロック期の画家の名前が良く出てくるが、にも関わらず、堀辰雄の作品は印象派の絵画を思い出させる。2015/09/25
kaori
38
青空文庫にて「燃ゆる頬」のみ。何故この一篇だけかというと、古い文庫本に挟んであった紙切れがきっかけ。拙い私の字で「燃ゆる頬 掘辰雄」と書いてあった。すぐさま高校時代の友人に薦められたものだと思い出した。読んでみて、読んだタイミングが今であって良かったと強く思った。少年少女期の蜜月。誰しもが少なからずとも感じたことがあるだろう。その頃甘いと思って口に含んでいた飴玉はいつの間にかビー玉になっていて吐き出してしまう。少しだけ大人になった今、口に含むからこそ、じわりととろける飴玉になる。2015/02/25