出版社内容情報
母の死後、母の初恋の人、佐山に引きとられた雪子は佐山を秘かに慕いながら若杉のもとへ嫁いでゆく――。雪子の実らない恋を潔く描く『母の初恋』。さいころを振る浅草の踊り子の姿を下町の抒情に托して写した『夜のさいころ』。他に『女の夢』『燕の童女』『ほくろの手紙』『夫唱婦和』など、円熟期の著者が人生に対し限りない愛情をもって筆をとった名編9編を収録する。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
429
9つの短篇を収録。川端というと戦後作家のようなイメージを抱きがちなのだが、これらの小説が書かれたのは1940年。ちなみに『伊豆の踊子』が’26年、『雪国』が’37年である。本書もまた古さを全く感じさせない。なぜなら、出版された’41年という年は太平洋戦争が始まった年なのだが、どこにも戦争の影が見えないばかりか、国を挙げての全体主義への傾斜には全く背を向けるように、本書の短篇群は個人的である。共通するテーマをあえて探すとすれば、それは個と個の間にどうしても埋めることのできない"すれ違い"こそがそうである。⇒2019/09/28
Shoji
69
短編集。昭和時代の女性の奥ゆかしさが伝わってきます。素敵な物語です。どの物語も最後の一行が力強く、全篇読了後に最後の一行だけ読み返しました。夏目漱石や川端康成を超える作家はもう現れないかもしれない、そんなことをふと思った。2017/07/30
じいじ
68
1940年に「婦人公論」に連載された九つの短編。どれも川端康成らしい美しい言葉、文章で綴られた面白い小説である。気弱な男の心情を描いた【母の初恋】。昔の男の影を結婚後も胸に秘める女の情念の【女の夢】。新婚旅行帰りに、妻の首肌に感じる夫の官能的な心情を美しく描いた【つばめの童女】。私的には、妻の襟足のホクロを触る癖を夫婦で議論する会話が面白い【ほくろの手紙】と夫婦の未来に向けての会話が、スルメをかみしめるような味わいの【夫唱婦和】が印象的。解説で高見順は「下手な解説など何の役にも立たぬ…」は、けだし名言。2014/11/05
佐島楓
67
ときどき、ひどく残酷なことばがはいってくることに、どきっとさせられる。叶わぬ恋は、著者自身の願望の投影なのかと、深読みしたくなる。うつくしいことばで綴られる小説の世界では、それぞれのひとびとが質量を備え、生きている。2019/01/15
はっせー
53
読書友達3人で読もうと約束して読んだ本。川端康成を読むのが初めてであったが読めて良かったと思える作品であった。本書は誰を愛する人達が登場する短編集になる。その愛が叶ったり叶わなかったり。川端康成って言葉が美しいだけではなく、構成なども美しいため、私としては小説の所作が美しいと思った!これから川端康成を読むだろう!2024/09/20