出版社内容情報
秋の一夜、静かに味わいたい江戸庶民の心映え。「夜の蝶」「凍てのあと」「あすなろう」「しづやしづ」「雪と泥」「へちまの木」「つゆのひぬま」「ゆうれい貸家」の名品全八篇を収録。巻末エッセイは山本一力。
内容説明
時代小説という形でしか描くことのできない、人間の生き様がある。多彩な作風を持つ周五郎が「下町もの」の中で描いたのは、まさに裏長屋、岡場所、居酒屋などという場所でしか息づくことのできない、江戸町民の切ない姿だった。表題作の、ささやかな幸福を前に戸惑う男女の姿が哀しい「しづやしづ」、武士の身分を捨て下町に生きようとする若者のあがきを描く「へちまの木」、黒澤明が愛し、映画『海は見ていた』の脚本の原型にもなった「つゆのひぬま」ほか「夜の蝶」「凍てのあと」「あすなろう」「雪と泥」「ゆうれい貸家」の全八篇を収録。
著者等紹介
山本周五郎[ヤマモトシュウゴロウ]
1903年山梨県出身。質店の徒弟、雑誌記者を経て、26年『須磨寺附近』で作家デビュー。67年没(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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じいじ
96
心にじんと浸みてくる江戸下町ものを集めた短篇集。表題作は、主人公おしづの再婚には何の障害もないはずなのに…。簡単に首をタテに振らないおしず。惚れた男なのに二つ返事で再婚に踏み切れないそのワケは…? 私は【凍てのあと】が好きだ。仲間うちの罪を背負って償う男と許嫁のおちかを描いた話。あたしは栄さんの女将さんになることを決めたんだから…と、男の気持が固まるまで、いつまでも待つという女ごころがいじらしく愛おしい。8篇どれもこころよい読み味です。2021/05/03
ドナルド@灯れ松明の火
15
いずれも切ないような話ばかり8篇。タイトルの「しづやしづ」のしづのいじらしさが心に残る。「ゆうれい貸家」はクスリと笑わせてくれる。やはり周五郎の人情ものはいいなぁ。2014/08/03
三平
7
下町ものを集めた短編集。表題作は恋愛物。相手にとっては"今のまま"でいいのに、自分の言動が相手に嫌われてしまったのではないかと考えたり、自分が相手にとって負担になってないかと思い悩んだりする女性を描く。自分も似た部分があり、不器用な恋愛にすごく共感。あと黒澤明が映画化を望んで叶わなかった『つゆのひぬま』も良かった。世間の無情に晒され続け光を見失った男が自分を理解し諭してくれる女に出会い再生していく話。最後はドラマチックで感動的で一本の映画を観たような満足感を貰えた。2014/11/23
ねこ
6
いくつかの雑誌に掲載された短編を集めたもの。最晩年に書かれた「へちまの木」が残りました。家を飛び出した旗本三男坊の物語。ひょんなことから瓦版の記事を書く職を得て、世間とやらをとくと見てやろう、書いてやろうと意気込むのですが、どうにも世間の水が合わず、もとの世界に戻るところで終わるのです。どんな心境にいたったのだろう、周五郎さん。2018/08/16
イッセイ
5
「しづやしづ」「凍てのあと」が◎ 「しづやしづ」に出てくる、天然のしづに萌えた。刊行から1年。第5集が出ないのが残念(T)2011/11/01