内容説明
海に囲まれた地方都市「海炭市」に生きる「普通のひとびと」たちが織りなす十八の人生。炭鉱を解雇された青年とその妹、首都から故郷に戻った若夫婦、家庭に問題を抱えるガス店の若社長、あと二年で停年を迎える路面電車運転手、職業訓練校に通う中年男、競馬にいれこむサラリーマン、妻との不和に悩むプラネタリウム職員、海炭市の別荘に滞在する青年…。季節は冬、春、夏。北国の雪、風、淡い光、海の匂いと共に淡々と綴られる、ひとびとの悩み、苦しみ、悲しみ、喜び、絶望そして希望。才能を高く評価されながら自死を遂げた作家の幻の遺作が、待望の文庫化。
著者等紹介
佐藤泰志[サトウヤスシ]
小説家。1949年北海道函館市生。國學院大學哲学科卒。81年「きみの鳥はうたえる」が第八六回芥川賞候補作となる。以後、八八回、八九回、九〇回、九三回の芥川賞候補作に選ばれる。90年10月10日自殺。享年四一(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
遥かなる想い
175
駅の本屋で、さりげなく紹介されていた本。筆者佐藤康志は何度も芥川賞候補作品を書きながら受賞できず、1990年突然の自殺を遂げた作家だそうである。この本の「海炭市」は筆者の育った函館をモチーフに、そこで暮らす多くの人たちを克明に描いている。読んでいてひどく懐かしい気がしたのは、その文体なのか、その叙景なのか…普通の人たちの18の人生を描く その筆力には非凡なものを感じるのだが…2011/05/15
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137
🌟🌟🌟🌟☆。いつかガッツリ向き合いたかった作家のひとり。「無冠の帝王」と言ったら天国から怒られるだろうか。海炭市で生きる様々な人々の生きザマを描いた二部構成全18編の人間讃歌。どいつもこいつも愚直で頑固で不器用で生き方が下手クソでバカばっかりで俺はたぶん登場人物の誰とも友達になれないと思うけれど何故か全員愛しくてなってくる。親近感が湧いてくる。抱きしめたくなってくる。「まだ若い廃墟」「裂けた爪」「夜の中の夜」「週末」「裸足」「まっとうな男」「夢みる力」「しずかな若者」が特に良かった。2022/01/10
新地学@児童書病発動中
126
これは傑作。函館らしき街を舞台に普通の人々の喜び、哀しみ、怒りを描いていく内容。一つの街を丸ごと描こうとする作者の意志が好きだ。華やかに生きている人たちではなく、どん詰まりで懸命に生きている人たちを丁寧に描いていくところに作者の人間的な優しさを感じる。都会ではなく、地方で生きている人間は、ここに出てくる登場人物たちと同じやるせなさや憤りを感じているだろう。飲酒運転で警察に捕まって、警官に手を出す男の話「まっとうな男」の「ただ働いてきた、それだけの人生だ」と言う独白は悲しくも、切ない。 2016/08/28
まーくん
86
先日放送のNHKBS「新日本風土記 函館の光…」に触発されて。函館に生まれた著者佐藤泰志は自分と同年代。自分は函館には住んだことはないが、何かと縁あり、仕事でも度々訪れたこともある。実在の地名を用いると差し障りがあるためか、海炭市という架空の街の名で綴られるが、海峡に位置し正面に砂州で繋がる400m弱の山があり山麓から頂上へロープウエイが通じてる人口35万の都市。路面電車が走る街と言えば…。ただ炭鉱が隣接してるということだけを除いて。故郷の地誌的記憶を舞台に、80年代末のこの地方都市に住む様々な人々の⇒ 2025/03/31
Nobu A
71
佐藤泰志著書初読。手に取った理由は今度の読書会の課題図書のため。正直期待外れ。芥川賞候補に5回も挙がったものの受賞を逃し41歳で自死と言う悲運。没後再評価され、本書は91年に文庫化。函館出身で地元を模したと言う作品。評価基準は現実性。私も仕事で函館には2011年まで3夏過ごしたことがある。地元密着のバーガーショップの存在を無視してマクドナルドやダンキンドーナツが出てくる。また、東京を「首都」と表現。その意図が読み取れなかった。当然その土地独特の儚さも。刊行当時読んでいたら感想も違っていたかもしれないが。2023/06/28