内容説明
仕事中心に生きている宇田川勇一は、父・総太郎が病に倒れたことを知る。妻、そして心を閉ざしてしまった息子とともに急ぎ故郷・広島へ帰省するが、脳死状態と医者に告げられた変わり果てた父の姿に絶句する。一方で、実家の部屋が纏う空気や呼吸のリズムは、勇一のなかに新鮮な風を起こし始める。ミシミシいわせながら昇る階段。黒光りする廊下の板。ガラガラと懐かしい音を立てる古い引き戸。両開きの窓から入り込む蝉の鳴き声。午後の風に微ぐ柿の葉。「鳥はええぞお。わしは今度は鳥に生まれてくるけえの」そういっていた父の言葉がふと胸にのぼる。
著者等紹介
辻内智貴[ツジウチトモキ]
1956年、福岡県飯塚市出身。ミュージシャン活動などを経て2000年、「多輝子ちゃん」で太宰治賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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はつばあば
59
作者の眼差しがいつも暖かい。夫が一休さんの言葉をいつも口にする(ほんまに一休さんか確かめた事が無いけれど)「喰うて稼いで寝て起きて、さてその後は死ぬるばかりぞ」と。どんな一生を送ろうと死は待っている。辻内さんじゃないが「何の為に生きるのか」「何が一番大切か」を考えたら我が家は「平凡に暮らせる」のが一番だと。その平凡で暮らせるありがたさを教えてくれるのが辻内さんの作品だ。帯の「親父、鳥になれるといいな」・・そんな言葉をかける勇一が、息子、英一との親子関係をいい方向に変えていくだろうと期待したらポロリと涙が2017/04/03
おかむー
45
いただきものの本なので一切の予備知識もイメージもないままに読んでみた。『可もなし不可もなし』。表題作『野の風』『帰郷』『花』この三作は生きることと人の幸せについて少なからず思うものがあったりして読めたのだけれど。最後の『愚者一橙 1995・夏』…これはなんというか哲学的な考察のようにも見えなくはない…なくはないけれど、そういう体でただひたすら屁理屈を捏ねまくって拗れすぎのくだらない妄言である気がしないでもない。正直ちょっと眠気に掴まったことと難解な文章に「読む」というより飛ばし飛ばし「眺めた」だけでした。2014/04/12
sin
40
初めて読んだ作品のカレの鉈をふるった行動には今も疑問を隠し得ないが、作者のメッセージはこの作品達からもびんびんと伝わってくる思いがする。死に逝くものをちゃんと送り出してやる気持ち!残された幻を受け止めてそこに相手を思い遣ること!青空の肯定!愚者の一燈!作者は宇宙は幻という賢者の言葉を引用するが僕は宇宙こそ現実で自分たち自身がそこに映し出された影のように思っている。そして創作や日々の業は人が投げかける影だと、全ての人々に物語があってそれがどういった形で影を落とすかの違いだけであるのだと作者と共に考えてみる。2014/03/22
a*u*a*i*n34
16
4編の短編集ですが表題作の他は「帰郷」で既読でした。辻内さんの作品は日々の生活に追われている最中にふと一息付けさせてくれるのですが読みすぎると本当にドロップアウトしてしまいたくなる危うさがあります。だからこそ読み続けたい作家さんです2020/01/16
陽
4
前回のセイジが良かったので、同じ著者の作品を読んだ。 3編の物語と、エッセイが入っている。 この著者は俺の感性と相性が良い、俺より2歳年上だからか、生き方が俺の理想形だ。物語の内容が俺の見てきた家族の在り方や、人間臭い昭和40年代の雰囲気や生活、その視点が俺のツボを刺激する。当分はこの著者の作品を読みまくると思うよ。帰郷は切なすぎる泣けた。2014/03/25
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- 和書
- 101歳の少年