出版社内容情報
唱歌誕生の影に存在した壮大な人間ドラマ
「僕」は、島崎藤村の「千曲川旅情の歌」への興味と、『破戒』が生まれるまでの道筋をつまびらかにしておきたいという思いから、真宗寺を訪れる。真宗寺は、『破戒』に登場する蓮華寺のモデルとなった寺である。藤村は、小説の取材(であることは、そのとき隠していたのだが)で、真宗寺を数回訪れていたのだ。しかし、住職の姉、武子から話を聞き、調査を進める中で、「僕」は、真宗寺に眠るもう一つの物語の存在に気づく。それは、かつて真宗寺に下宿し、寺の娘、鶴江と結婚してのち、「故郷」「朧月夜」「紅葉」「春の小川」を生み出した高野辰之の隠された生涯に迫る物語であった。
長きにわたり作者不詳とされた文部省唱歌。彼はなぜ、唱歌を作詞することになったのか。その謎を解くため、「僕」は、上京後の辰之の足取りを追い、作曲を担当した岡野貞一の生涯をも明らかにしていく。
さらに、西本願寺第二十二世門主で大正天皇の義兄となり、三回にわたりシルクロード探検隊を派遣した大谷光瑞、藤村作『椰子の葉陰』のモデルとなった藤井宣正、そして、真宗寺の娘たち……。近代化・欧米化の波に追われた明治後期から昭和初期を生きた人々の生き様と夢が描かれる。人間味溢れる壮大な物語。
【編集担当からのおすすめ情報】
歌の陰で、名前さえ明らかにされなかった2人の作者の人生が、著者の丁寧な取材によって一つの物語となり、スポットライトを浴びることとなった本作。「故郷」が生まれて110年という節目の年に、再び文庫化となりました。
著者の、故郷を思うあたたかなまなざしと、同郷人への愛を感じる物語でもあります。
明治末期から昭和初期の、光と影が複雑に絡み合った時代の風を感じながら、懐かしい歌の数々に、改めて出会っていただきたいと思います。
内容説明
「故郷」「朧月夜」「紅葉」等、今なお歌い継がれる文部省唱歌。長い間作者不詳とされたこれらの歌を生んだのは、高野辰之と岡野貞一という2人の男たちであった。これらの唱歌誕生の謎を解くため、「僕」は、長野県飯山の古刹、島崎藤村『破戒』の舞台でもある真宗寺を訪れる。真宗寺は辰之が若き頃、下宿をしていた寺であった。辰之の足取りと共に明らかになる貞一の生涯。さらに、シルクロード探検隊を派遣した大谷光瑞、『椰子の葉陰』のモデルとなった藤井宣正、真宗寺の娘達の人生がクロスする。明治から昭和初期を生きた人々の夢と生涯を描くノンフィクション群像劇。
目次
第1章 いつの日にか帰らん
第2章 思ひいづる故郷
第3章 夢は今もめぐりて
著者等紹介
猪瀬直樹[イノセナオキ]
1946年長野県生まれ。’87年『ミカドの肖像』で大宅壮一ノンフィクション賞、’96年『日本国の研究』で文藝春秋読者賞を受賞。東京大学客員教授、東京工業大学特任教授を歴任。’07年東京都副知事、’12年東京都知事就任。’13年辞任。’15年大阪府・市特別顧問就任。’22年から参議院議員(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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