出版社内容情報
著者円熟期の秀作中短編を5編収録。キリスト者の視点からは、大人も子どもも、受刑者も市井の人も、等しく罪深く哀しい。その哀しみを見据えて、魂の救済を願う著者の視点は深い共感を呼ぶ。没後10周年記念出版。
内容説明
知らぬ間に麦畑に紛れ込み、はびこっていく毒麦のように、容赦なく人々の心をむしばんでゆく悪意の種子。その種子を蒔くのは、生まれついて悪しき人々なのか、あるいは無垢と見える我々自身なのか。凄惨なまでに人間の弱さ、醜さを描き続け、血を流すような痛みの中で読者に人間の営為と神の愛を問い続けた三浦綾子。父の不倫に端を発して両親の別居で、徐々に孤独の淵に追いつめられていく少年の姿を描いた表題作の他に、作家活動中期の短編『尾灯』『喪失』『貝殻』『壁の声』を収録。
著者等紹介
三浦綾子[ミウラアヤコ]
1922年、北海道旭川市生まれ。十三年間の療養生活中に洗礼を受け59年に結婚。64年、朝日新聞の懸賞小説に『氷点』で入選し作家生活に入る。キリスト者のまなざしで「愛とは何か」を問い続けた。99年没(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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mariya926
123
すでに2回読んで3回目ぐらいですが、読メに登録していませんでした。5つの短編集ですが、三浦綾子さんらしい原罪による人間の闇というか、汚らわしさが、あますところなく表現されています。三浦綾子さんの小説を読むと人間とは??と考えさせられます。ある程度は特に子どもの心は自然と追い詰められていきますよね··ここからどうなっしまうのか、結論を読むのが怖いです。しかしここに出ている内容って特別な事ではなくて、今もどこかで起こっている内容というのが、また怖いです。2022/08/02
kawa
37
久々の三浦綾子さん。人間の暗黒面をクロ-ズ・アップする短篇集で読後感はイマイチ。キリスト教者の三浦さんの信仰上の立ち位置からの作品だそうであるが、そちらに疎い読み手としては解説文を読んでも…。昭和30年代の北海道の雰囲気や男女関係の様子をうかがえることと、「貝殻」での安さんの純朴な描かれ方が読みどころだった。機会を見て未読の長編作品を読んで見よう。2021/01/16
キムチ
36
5つの短編が入っている。表題が毒麦・・つまり知らぬ間に麦畑にはびこって人心を蝕む悪意の種。その源は生来の悪意or自分自身かという疑問。これはともすれば、ステップファミリーにある児童虐待問題や殺人にも繋がって行く話だった。しかし、5篇とも人間社会で起こりうる心理的綾、すれ違い、悪意といった事象の話で人ごととも思えないほど重苦しい。障害関係が2篇あり、今日的な問題にも通じ、哀しい。人との関わりが全て巧く行く、行かすという事は不可能に近い。宗教を絡める以前の話だと思う。2014/03/09
カピバラ
28
三浦綾子にしては、カトリック色が薄めだけど人間の本質をつくというか、裏側を見せ付けられるというか…なんともいえない読後感。2015/07/25
ソルト
14
悪意に満ちている人、暴力を振るう人、心の冷たい人。そんな風に見えても他の人からは違って見えるのだろうか。嫌なところもあるけどベースは良い人。自分の事をそう思うけど、他人からはただの嫌な人なんだろうか。この本の中では良い人が誤解されたり、裏切られたりした挙句あっさり死ぬ。死は罰じゃない。だけど生き方にふさわしい死に方をするとは限らないと思うと虚しい。善人は幸せに悪人は不幸に、と思う。だけど運命の残酷さに慄く。だからといって汚らしく生きるのは嫌だ。「人生の最後」に思いを馳せてと促されている気がした。2016/09/08