出版社内容情報
郷里・福岡の炭鉱町。数十年前、小学生だった私のそばには、いつも町いちばんの“頼れる悪童”信さんがいた??。太宰治賞作家が贈る、全世代対応、どこまでも透明な色彩で描かれた、ある名もない魂の物語。
その男、信さんは、小学生時代、2年先輩で、町で知らないものはいない悪ガキだった。そんなある日、私はいじめられている現場で信さんに助けてもらう。私の母は、誰もが恐れる信さんに丁寧にお礼をいった。信さんは泣き出してしまった。彼の父親は早くに他界し、叔父夫婦の養子になっていた。しかし、それからすぐに叔父夫婦には待望の娘が生まれ、信さんはいわば厄介者のような扱いを受けていた。私の母を慕う信さんは次第に本来の明るさを取り戻していった。しかしやがて叔父が早逝し、代わりに一家を支えるため、最愛の義妹を憧れの高校に行かせるため、信さんは上京を決意した。そして、3年が経ち、“その日”はやってきた??。
内容説明
人生という名の野っぱらを全速力で駈け抜けたガキ大将が、いた。太宰治賞作家が描きとる、ある名もなき魂の物語。
著者等紹介
辻内智貴[ツジウチトモキ]
1956年、福岡県出身。ミュージシャン活動などを経て2000年、「多輝子ちゃん」で太宰治賞受賞
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
いつでも母さん
158
紛れもなく『昭和』があった。私も歳のせいか涙腺が緩む。信さん、あの頃はどこかにいたね。信さん、ありがとね。信さん、忘れないよ。信さん、信さん・・会いたいよ。そしてヨン君、今は幸せだろうか・・幸せでいて欲しい。読み友さんのレビューにさそわれて手にしたが、あっという間に読めるのに、読後感は何ともいえないものがあった。2017/01/30
紫 綺
125
中編、短編の2作。昭和30年代、昔栄えた北九州の炭鉱町を舞台に、貧しいながらも活き活きと生きる子供たちを描く秀作。あの頃はどこにでもいたガキ大将、正義感が強く周りの面倒をよくみる存在だったのに・・・。懐かしい九州弁が心地よい。2017/02/02
ゆみねこ
82
読み友さんの感想で手に。とても良い本でした。昭和30年代、まだ貧しかった九州の炭鉱のあった町で、親に恵まれなかった一人の少年と、彼を温かく見守った近所の親子の交流。信さんはマモルの母に母親としての愛情と初恋の両方の想いがあったのでしょうね。遥い町も掌編ながら心に残るお話でした。2017/01/25
ち~
29
まさに「古き良き昭和」の時代。上辺だけを見ると乱暴者でロクでもない子供の信さん。でも、ちょっとしたキッカケや、一言でどんどん長所が見えてくるし、伸びてくる。淡い恋心(?)もたまらなく純粋。そして ヨンくんも、ひたすら母を思って耐える秘めた強さ。この物語の語り手は、何十年経っても色あせない思い出と友情を持てたこと、とても羨ましく思いました。たった100ページ程の話ですが、良い本に出会えました。2016/02/14
mami
21
頁をめくっているのか、すすりあげているのかもう訳が分からない位に泣いた。昭和30年代の炭鉱で賑わう町を題材とした物語。家庭の事情を抱えながらの子供時代を過ごした信さんとヨンくんのお話し。本人たちは辛いことも多かっただろう。でもね、いつまでも誰かの思い出に登場するのは幸せなことでもあるんだよ。そんな気持ちで読み終えた。決してひとりじゃない。みんないい子。もっともっと注目されるべき本。自信を持ってお勧めしたい。2017/02/10