内容説明
プロレタリア文学が一世を風靡し、短い文芸復興期を挟んで、戦争文学が主流になっていく戦前・戦中期。どの波にも乗れず、講演の抄録や短い文芸批評、地方紙の埋め草原稿などで糊口をしのいでいる小川庄太は、東京でやっていけなくなると故郷の小田原に戻り、実家が持つ物置小屋で寝起きしていた。やがて、他人のものに手を出すまでに困窮し、軍隊に入るか、牢に入るか、というところまで追いつめられて…。自分と家族の身の上を縦軸に、文学仲間の動静を横軸にして淡々と綴る見本のような私小説。宇野浩二、中山義秀、田畑修一郎、火野葦平らが変名で登場し、文壇の裏事情が垣間見える傑作。
著者等紹介
川崎長太郎[カワサキチョウタロウ]
1901(明治34)年11月26日‐1985(昭和60)年11月6日、享年83。神奈川県出身。私小説一筋の生涯を貫く。1977年、第25回菊池寛賞を受賞。1981年、第31回芸術選奨文部大臣賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ライム
0
長い年月を経ても変わらぬ文学への意思が、体の中を地下水脈みたいに流れていたのだろう。作品へ対する評価の方はかんばしく無くても、それでも俺は書き続けるんだとの一途な姿勢には心打たれる。東京で食い詰めて実家に帰れば、弟の嫁に甲斐性なしと罵られ、寝たきりの母の介護仕事を引き受ければ、母からも職を変えろとのしつこい小言…そこに追い打ちをかけるかのように、戦時下の為に新聞雑誌の廃刊多発で注文も激減。それでも心折れずに書き続け…その結果、令和の今でもこうして本が復刊されている事実に感動。2025/07/12