出版社内容情報
オスカーの出生にまつわる秘密……。それが父母の愛を破局に導き、思いがけない悲劇を呼び寄せた。母を亡くしたオスカーと父グスタフのあてどもない旅が始まる。名作「トーマの心臓」番外篇表題作ほか、戦時下のパリで世界の汚れを背負った少年の聖なる怪物性を描いた「エッグ・スタンド」、翼ある天使への進化を夢想する「天使の擬態」など、問題作3篇を収録。
オスカーの出生にまつわる秘密…。それが父母の愛を破局に導き、思いがけない悲劇を呼び寄せた。名作「トーマの心臓」番外編の表題作ほか、「エッグ・スタンド」、「天使の擬態」など、問題作3編を収録。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
honoka
56
多々再読。「トーマの心臓」オスカーの幼年時代。「エッグスタンド」─ぼくは多分なにか忘れて生まれてきたんだね。だってぼくは好きなんだ この戦争が この長い冬が 苦しがって血を流している世界が とてもいとおしいんだ「目を閉じて いい子だ」きっとその後のことは分かっていたはずなのに、静かに素直に目を閉じるラウル。読む度に落涙。2015/10/31
yumiha
42
思わず「トーマの心臓」を読み直して(数度読んでいるが)オスカーの出てくる場面を確認した。そのオスカーのシュロッターベッツ校へ来るまでのいきさつが描かれている本書。なんと健気で一途だったことか…。「パパにとって雪の上を歩いてくる神様は(略)あなたを裁きに訪れた人はぼくなの?」と思うオスカーの痛々しさ。子どもが父親の重荷を半分担ごうとして思いやっているのに、パパは自分の苦しみで満杯でオスカーの心を思いやることができない。ここがツライとこだ。血の繋がりよりも一緒に暮らした日々こそが大事!という正論が虚しい。2023/11/10
ちゃりんこママ
40
「エッグ・スタンド」について。今なら何とも思われないだろうが、掲載された時はグロ系には慣れた私でも一応少女誌に発表するのは暗いと思ったし、孵化前の茹で卵や、男娼の少年の行為後の全裸が生々しく描かれたので萩尾ファンタジーのファンには敬遠する向きもあったようだ。戦争が生んだ狂気の犠牲者のように描かれていて、そこが少女漫画の限度だったかもしれません。最終話の「天使の擬態」…女性観としては、また賛否の別れる作品で、やや修飾された感が否めませんが、恋愛をきれい事では済まさない意気込みがあります。2014/09/01
neimu
38
「トーマの心臓」も切なかったけれど、ある意味、これももっと切なかった。少年達だけではない、大人の世界のやるせなさ。連綿と受け継がれる人間の業のようなものを垣間見せられて。でも、遺されたものは生きるしかない。生まれてきたからには生きるしかない、オスカーの生い立ち、過去。辛かったなあ。でも、それは今風の「虐待」などではない。心と心の深い繋がり、それが感じられていっそう切なかった。
糸車
37
再読。「トーマの心臓」ではどこかさめたふうに振る舞っていたオスカーの健気さに涙。最初理解できなかった「大人」たちの複雑な感情もじわじわ分かるようになってきて、せつない。不思議なことにグスタフさんの駄目っぷりも愛せるようになってきて、所帯やつれした中年の哀愁漂う色気にドキッとする始末。年を取るといろいろ変わるものだ。そしていつものようにラストシーンではぼろぼろ涙。神様のエピソードは秀逸。登録してから気づいたのだけれど、これは文庫版。わたしが持っているものは昭和56年4月15日発行、初版のハードカバーでした。2015/11/16