出版社内容情報
ティツィアーノ、フェルメール、ボッティチェリ、カラヴァッジョ、ゴヤ、ボス、ベラスケスetc 西洋絵画のポイントを知れば、名画鑑賞はさらに楽しめる。神話、キリスト教、聖母、女神、ファム・ファタル、寓意、魔女、メメント・モリなど、絵の中に散りばめられたヒントとその背景をもとに、美術研究を重ねる芥川賞作家が解説。以下、章タイトル。
第1章 聖母とマグダラのマリアの描かれ方~キリストの時間の中にいた聖なる人たち
第2章 絵画空間に置かれた「自分」~寄進者の肖像
第3章 都市風景が見せる街の肖像~画家たちが記録した都市の姿
第4章 絵の中で主役となるもの~物語を包む風景
第5章 失われるもの、移ろうものたちの表現者~舞台装置としての小道具
第6章 害悪の象徴として作られた魔女~キリスト教的価値観から外れた存在
第7章 古代の女神が見つめる先にあるもの~理想美と教訓をもたらす多面性
第8章 ファム・ファタル(宿命の女)と呼ばれた女たち ~愛がもたらす破滅の運命
第9章 絵画の中の夜~夜がどのように生まれ、どう描かれてきたか
第10章 画家の目としての鏡~アントニオ・タブッキの短編と奇妙な写真
第11章 カンヴァスをはさんで画家が対話する肖像~移ろう姿を切り取って
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
244
いつもは静かに佇んでいる絵画なのだが、案外にもかれらは饒舌だったりもする。ただし、彼らの声を聞くためには、ちょっとした秘訣が必要だ。その閉ざされた扉の向こうの世界と私たちとを仲介してくれる天使役を務めてくれるのは、『貝に続く場所にて』で芥川賞を受賞した石沢麻衣さん。彼女は西洋美術史の研究家でもある(むしろ、こちらが本業か)。そんな彼女なので、通常の解説書とは違って物語世界へ誘うように私たちを絵画の世界につれてゆく。そもそも絵画自身が、虚構世界から現実世界へなかばはみ出してこようとしているのだから、⇒2025/05/18
hasegawa noboru
17
もう二十年の昔になるか、その年の夏のゲント(本書では「ヘント」)の街は寒くて、あわてて共にウールのセーターを買い着込んで歩いたのを覚えています。教会の祭壇画の”犠牲の仔羊”の細密具合に街および教会の雰囲気と相まって感動したことも覚えています。そういう思い出を共有した 連れ合いが末期虫垂癌で逝ったのを看取って2週間が経ちました。その画を二人で観た記憶はいま私一人の中にしかありません。やがて消えてゆくでしょう。緩和ケア病棟へ付き添いで通った一月余の記憶は強烈すぎますが、それもやがては消えゆく。骨灰。死は 2025/06/03
rinakko
10
とてもよかった。著者の透徹した文章に惹かれてやまないので、絵画を巡るこの本も読みたくなった。11の其々の章は、ある絵画へと導かれていく経緯や情景から始まり、絵画の中の物語を潜り抜けて戻ってきたときの現実のふとした揺らぎで締めくくられ、そこだけ小説のような絵画の旅になる。キリスト教や神話に基づく決まり事、聖なるものを「見る」ことの意味。かつて画家は、失われゆくもの、移ろうものを留めることが出来る唯一の表現者だった。美と妖艶さで女性たちが飾り立てられ、その行為の背景を奪われたことについて。など。2025/04/16
冬草灯
3
西洋美術史に造詣のある作家の美術エッセイ。このタイプの本と言えば、専門的なものか、「○○と私」みたいな個人的感想、または分かりやすく派手な話題を思いつくが、『饒舌な名画たち』は明らかに一線を画している。解説は専門的だけど、作家は絵を鑑賞する視線を、自分のいる現実側にも等しく向けるからだ。その体験や絵に対する印象は、もうそれだけで一つの物語か散文詩のように美しい。古い時代の絵は、現代の状況に対する答えとなって呼応したりする。テーマやモチーフを通して、過去と現在をつなげ、見る/見られるを曖昧にする手腕は見事。2025/04/15
sakko
2
著者視点での絵画鑑賞を一緒に楽しめる本。それまでの思い出だったり体験したことを絡めながら、テーマ毎に何点かの絵画について語られており、姿形も分からない著者との距離感が何だかとても近くに感じられました。絵画では作者毎に視点や捉え方・表現方法が異なっている為、同じ題材でも全く違うものとして残っており、私たち鑑賞者は時代を超えて色々と想像する事が出来て面白い。現代では写真で何もかも綺麗に映して残す事が出来ますが、その完璧さの中からは得られない素晴らしさが絵画の中にはあるなあと感じました。2025/06/06
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