出版社内容情報
幕府に翻弄される庄屋、圧政に苦しむ百姓、身命を賭して民を守る名君。九州・久留米藩を舞台に、大庄屋の次男・庄十郎が医師を志す成長物語。名も無き人々への慈愛に満ちた渾身の長編小説。
内容説明
久留米藩領井上村。大庄屋高松家の総領・甚八と弟の庄十郎は父に連れられ、数千と集まる百姓たちの姿を目の当たりにする。突然下った年貢の増徴と夫役。百姓たちの怒りに火がついたのだ。天地を揺るがすような一揆寸前、稲次因幡家老が百姓救済を申し出て、一揆は回避されるが―。時が経ち、甚八は家督を継ぎ、庄十郎は自らの病をきっかけに医師の道を志す。黄金色に輝く稲穂、田植え唄、雨乞い、火祭。筑後平野に息づく、さまざまな人生の哀歓を描きつくす感動長編。
著者等紹介
帚木蓬生[ハハキギホウセイ]
1947年福岡県生まれ。東京大学文学部仏文科卒。九州大学医学部卒。精神科医。93年「三たびの海峡」で第14回吉川英治文学新人賞、95年「閉鎖病棟」で第8回山本周五郎賞、97年「逃亡」で第10回柴田錬三郎賞、2010年「水神」で第29回新田次郎文学賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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さと
135
敢えて言葉にするなら"美しい悲しみ"が心に湧き出てくる。何故か悲しくてたまらないのだ。人がただ生きようとするだけではないか、家族を想い労り合うだけではないか。生まれながらに負った宿命と、自ら変えようとする運命と、医師として生きると決めた天命。抗いながらも受け入れるしかない三者の苦しみが、やり場のない怒りとなる。それでも彼らはそのすべてを受け入れ明日への望みを託し今日を懸命に生きる。星は天に、花は地に…人にはそれぞれに生きる世界があるが、怒りや悲しみを喜びに変えるのは人の心に宿る慈愛に他ならない。2017/07/08
藤枝梅安
121
名作「水神」で描かれた筑後川堤から数十年後。久留米藩の享保・宝暦の二つの農民一揆を経験した医師・高松凌水の生涯を描いた力作。大庄屋の次男に生まれ、幼くして疱瘡にかかり、それがもとで母が亡くなる。長男である兄の恨みを買い、母の実家である大石家を頼って故郷を離れる。医師・小林鎮水のもとで医術を学び、故郷に近い町で開業。妹の嫁ぎ先の大庄屋・大石久敬が出奔ののち、妹とその子供を引き取る。史実を登場人物に語らせつつ、この作家ならではの精緻な描写で、圧倒的な臨場感と感動を与えてくれる。帚木先生の渾身の力作。2014/09/17
ケイ
98
タイトルが大変にキリスト教的な印象。オランダ人の医師の書いたものだから、そのような意味かもしれない。『水神』の数十年後の話。ひどい税が課されると、農民は立ち上がらずをえない時がある。その時、領主側に農民の訴えの切実さを理解する者がいるのといないのとでは、例えその訴えが認められたとしても、生み出す悲惨さに違いが出る。『水神』と同じく、史実をもとに書かれたようだ。読み応えのある一冊。2014/10/13
初美マリン
97
百姓たちが、立ち上がる背景疱瘡にかかり医師となる主人公それぞれ懸命に、生きた。恨みさえしていた兄の遺書に、自分の人生は、これ以上でもこれ以下でもなかったというのが、深い。2018/09/30
Lara
91
久留米藩、大庄屋次男、高松庄十郎が医師として、地域農民らにささげた人生を描いた作品。家老宅の掛け軸にあった「天に星 地に花 人に慈愛」の言葉がテーマ。厳しい年貢の取立てに、農民達の一揆が起こり、人情ある家老は農民側に立ち、訴えを受けて藩主に通してくれるが、若くして亡くなる。さらに厳しい天候の悪化、作物不良の中、藩主はさらに年貢を追加しようとする。一揆を起こした農民には、厳しい沙汰がおり、処罰される。とまあ、いつの時代も庶民に厳しいのがお上ですかね。どうして庶民の生活を理解しようとしないのでしょうか。2020/02/08
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