出版社内容情報
★本書は『書評空間 KINOKUNIYA BOOKLOG』にエントリーされています。
内容説明
十代で菊池寛に見出され、横光利一に才能を認められ、二二歳の時「酩酊船」で文壇デビュー、将来を期待されながらも以後一作の小説も刊行しないまま、奈良、山形、三重など日本各地を放浪、在野で文学研究に打ち込む半生を送った後発表した「月山」で、六二歳で芥川賞を受賞した作家、森敦。その間殆ど小説を書かなかったにも拘わらず、森は太宰治、檀一雄らと同人誌を作り、又、すでに名を成した錚々たる作家達が訪ねて来ては文学上のアドバイスを乞う。プロの作家でもなく、定職に就かない時期も永い、一介の在野の人間である森の文学理論は驚くべきものだった。本書は、五十代で東京に移り住み、文学研究に没頭した森敦に親しく接し、文学上の師弟関係となり、更に森敦夫妻の生活面まで助けるようになった著者が、森の没後十五年の今、作家の素顔と謎の半生、そして名作「月山」執筆と芥川賞受賞の経緯を評伝小説として綴ったものである。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
踊る猫
27
グスタフ・ヤノーホ『カフカとの対話』を想起させる一冊だ(著者も意識したのか、タイトルもそう言えば似ている)。森敦という天才肌の切れ者で、実は生活力に欠け天真爛漫に生きた作家の生々しい人生に肉薄し、近すぎたところに居た人間だから書けたことを克明に書いている。もちろん、この本を読んでも森敦の作品の謎や神秘は解けないわけだが、この本にある愛すべき人柄を頭に入れて読むと魅力がグッと身近なものに感じられる。その意味では森敦の世界を身近に感じさせる仕事として受け取れるだろう。ヤノーホの仕事にも比肩しうる興味深い一冊だ2021/12/15
harass
8
森敦という作家のことは勝目梓の自伝小説で知ってこの本を手に入れた。あまりに文学的な人物で面白すぎる。森敦は二十代始めに菊池寛に認められて新聞に小説を連載するほどだったが執筆をやめ放浪する。だが深遠な文学理論と人格に惹かれて作家や作家志望者が彼の話を聞きに集まるようになっていた。そんな彼に師事して後に養子になった女性が彼との対話や生活ぶりを書いた本だ。著者のすすめもあり森は再度筆を取ることを決意して40年ぶりに書いた小説で芥川賞を取る。62才での受賞だった。魅力的で傲慢で浮世離れした森敦を描いた作品。良書。2013/04/28
黒田錦之介
3
毎朝、山手線車内でで下書きをする森敦。それだけで先ず衝撃を受ける。2008/01/02
おたきたお
2
著者は「小説を書いて欲しい、世に彼を認めさせたい」という信念で彼と向き合っていた。その信念の一途さに脱帽。その一方で、自分の元から森敦が離れることを恐れて「小説を書いて欲しくない」と言い続けていた天衣無縫な妻・ヨーコは精神を苛んだのではないか、と推測させる下りもあり、考えさせられる。この本に出てくる人々の一途さをひしひしと感じた。森敦は確かにある意味天才かもしれないが、彼をとりまく人々があって初めて彼の人格が保たれたのだろうと思った(彼に「尽くす」人間を引き寄せるのも彼の人格(才能?)、かもしれないが)。2006/01/01
yoyogi kazuo
1
森敦もそうだがこの著者も相当な人だ。同人誌の会合で森敦と知り合い、いつの間にか身の回りの世話をするようになって、森敦の妻は精神を病んで入院してしまう。こう書くと「死の棘」ばりの修羅場を想像するが、この三人はどうもそういう関係性ではなかったようだ。だがこの記述はあくまでも著者の目からのものであって、実態は謎である。しかし森敦の妻が精神を病み入院してそのまま亡くなったのは事実であり、その原因が彼女が反対していた小説を森敦が書くようになったこと、それを勧めたのが著者であったこともまた事実である。2021/01/18
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