内容説明
小説をめぐる思索の軌跡、創作の秘密の「部屋」を初公開。「なぜ小説を書きたがるのか。小説を書くことが、どうしてこれほど深く楽しいのか」著者が明かす小説・文学論の精髄。遺作文学論。
目次
忘却の川
前世の記憶
初めに怖れがあった
森の中で
人間に成る
呪術的儀式
神話的思考
歴史の裂け目
書くことの秘儀―マルグリット・デュラス『愛人』
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
踊る猫
31
「私」つまり「ここにいる思惟の主体」。そしてその「私以外」の「世界」あるいは「向う側」。それらは混じり合うことはない。つまり「私」がそのまま「世界」になることはなく、どれだけ思念をめぐらせてもその思念を裏切る驚異・脅威としての「世界」は存在する。日野啓三はこの書物において本格的に知識を総動員して「世界」を解析し、その裏返しとして「私」自身をも問い直そうとしているかのようだ。そのアプローチは科学(物理学・脳科学)や哲学をも呑み込み壮大な集大成を築き上げている。ハッタリに堕さない誠実・真面目な態度が実に印象的2024/09/24
jahmatsu
27
日野氏の遺作にあたる作品、簡単に『エッセイ集』と言ってしまいたくない濃密すぎな作品集。人類の起源から宇宙へ、本人の何度かの大病から語られる、生の意味。そして書くこと。日野ワールド全開にクラクラする。前半の作品が自分的には特に印象的。2019/03/27
kogoty
5
幾つかの書籍の引用から成る著者の理解の道筋とその地層を観る。知識と体験での肌感覚から得られた考察(幾つかの著作に明らか)が一つに集約するを経ての段階。逆説的かもしれないが、引用は氏の「言いたい事」の後押し(勇気を与えてくれたという意味で)だと感じた。上げられている書籍を読んでみようと思い、地域の図書館に当たってみたけれども2冊のみ。残りを古書店で買うかどうするか・・・。私もこういう感想文が書きたい。2015/12/18
茶幸才斎
4
何度か大きな病気をして死の淵をのぞき、生きるとは何か、ヒトとは何か、この世界にどんな意味があるかについて、あまりに深刻に、あまりに悲愴に、悩み苦しんだ筆者の思いがつづってある。自分が感じる生きること、そしてやがて死ぬことの苦悩や恐れは、原始旧石器時代の狩猟採集民に芽生えた人間の心の動きに重なるのではないか、と筆者は考えている。そして、死は恐怖であると同時に、生を輝かしく喜ばしいものと痛感させるとも。生命の輝きは、死を前提とした、いとおしさからくる、ということか。2009/11/18
でろり~ん
2
興味深く読みました。真性の物語作者であると思っている人の、創作にあたっての物の捉え方、考え方。ふうむ、そですかあ、と、そこで既に置いて行かれる感が強かったですが、屈原の章以外はどれも考察の深さに感応されました。エクリチュールとパロールについての言及は、太古からの個人記憶と結びついて、非常に興味深かったです。芸術というと、それだけで正面には立てないような感覚にとらわれますが、それじゃあやっぱり、創作する側には回れないってことですねえ。ラ・マンって未読ですが、そういう小説だったんですね。読んでみようかな。2015/09/11
-
- 和書
- 世界のシワに夢を見ろ!