内容説明
7年前に内臓の悪性腫瘍を摘出した作家の「私」は、駅のホームを照らしだす異様に透明な光を手術前夜に見て確信する。生きていてよかったと―死と隣り合う生の根源的な輝きを鋭利に描く短編集。
著者等紹介
日野啓三[ヒノケイゾウ]
1929年6月14日東京都に生まれる。幼少時を現韓国ですごす。52年東京大学文学部社会学科卒業。読売新聞社入社。外報部勤務の傍ら文芸評論を執筆。66年「向う側」で小説デビュー。74年「此岸の家」で平林たい子文学賞、75年「あの夕陽」で芥川賞、82年「抱擁」で泉鏡花文学賞、86年「夢の島」で芸術選奨文部大臣賞、「砂丘が動くように」で谷崎潤一郎賞、92年「断崖の年」で伊藤整文学賞、93年「台風の眼」で野間文芸賞、96年「光」で読売文学賞を、それぞれ受賞
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感想・レビュー
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Bartleby
18
表紙のピラネージの絵がこの本全体の雰囲気とよく合っている。暗さが際立つ作品が多いけれども、読んでいて不思議と気持ちが落ち着いてくるような、それでいて感覚が冴えてくるような感じは著者のどの本とも共通していると思う。10月の透き通るような日差しと夜に見上げた高速道路の重々しい黒さ、それらを対比的に描きながら同時に一致させてもいる表題作「冥府と永遠の花」が、この中では一番好きかもしれない。2015/04/30
tipsy
9
日野啓三初体験。作者が病と闘いながら書いていたという理由もあるだろうが死を身近に感じるような、身に迫る肌触りがする。死を通して別の風景を見ている不思議な感覚すら覚えた。外の刺激を自分の中に取り込み深く思索し表現し、神秘的瞬間を独自の美学で書き出す。更に存在の暗闇をも照らし出すが、治癒と生命力への希求がそこには潜む。気付いたら文章に寄りかかるようにして読んでいた。2015/03/06
kogoty
6
短編集。「―十月の光は他のもろもろの季節の光の、いわば光の中の光。―そのふしぎな透明さが照らし出すのは、このような物と世界が意味も目的も不明なままに、いま実在していると言う必然。―<光の中の光>の中で、すべてはこうでしかなく、このようである、無気味なほどリアルに。(「冥府と永遠の花」より)」十月生まれなのでとても慕わしい感覚だと感じた。図書館で目に付いた氏の本を借りたのだけれど、短編集ばかりだったな。そろそろ長編を読みたい。2015/11/13
夕木
1
サンマルクで読み終えたとき、向かいには誰も座っていないのに、私はつと「だから日野啓三はすごいんだって!」と熱弁したくなった。家の階段脇に桜の樹の落ち葉が散っていたのを見たとき、それを先人たちが言ったように(一年が過ぎ行く)季節の掟だと捉えようとして、日野は咄嗟に自己反論する。葉も爬虫類も鳥も、死を恐れるゆえに生を持続させているではないか、と。ガン告知後に、その現状を近辺の自然と共に心の内を整理して書かれた「先住者たちへの敬意」は、人間がもの思う前から生を宿した「先住者たち」に目を向けた短編。2014/03/30
更新停止中
1
好きな日野啓三と嫌いな日野啓三混在。「黒よりも黒く」が小説としてはとても好きなんだけど、同時代の亡くなった方を題材にこんな「おはなし」を作ることへの倫理的な疑問もあって、「作品」への「倫理的な」疑問というのはこの小説とモデルになった人物の死に大きく関わる事だけに何やら複雑であった。あと自分の体験を私小説として「物語」化、フィクション化してると現実的に自分に起きてる事への対処力って下がる気がする。鼻血が急に毎日出るようになったらそれネタに小説書いてないで病院に行った方がいいと思います。2011/11/17
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- 和書
- 今生 - 〓橋千恵句集