出版社内容情報
2007年ノーベル文学賞受賞!
英国文壇を代表する女流作家が、トレンディなキャリアウーマンと老女との交流を描いた感動作。
内容説明
ジャンナは高級女性誌の有能でファッショナブルな副編集長。数年前に夫と母を癌で亡くして、彼女の人生は大きく変わった。ひとりぼっちになったジャンナは、もう若くはなく、よりどころもない自分のもろさをはじめて意識する。そんな時、近所の薬局で90歳過ぎの貧しい独り暮らしの老女モーディーと出会い、その独立心旺盛な強い個性に惹かれ、しだいに人間的な絆で結ばれてゆく。老いの孤独と仕事をもつ女性の問題に真摯にむきあい、切なくもしみじみと深く胸を打つ、正真正銘の感動作。
著者等紹介
レッシング,ドリス[レッシング,ドリス][Lessing,Doris May]
1919年生まれ。英国の作家。英国人銀行家の娘としてペルシャ(現イラン)に生まれ、南ローデシア(現ジンバブエ)に育つ。二度の結婚・離婚の後、49年に英国に渡り、翌年『草はうたっている』でデビュー、この一作で地歩を固める。以後多数の長編小説、短編集、詩、戯曲、随筆、ルポルタージュを発表し、多彩な活動を続ける。ノーベル賞候補作家
篠田綾子[シノダアヤコ]
東京大学英文学科卒。元慶応義塾大学・青山学院大学講師
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
hiroizm
24
podcastのため約十年ぶりに再読。1970年末のロンドンを舞台に、50代キャリアシングル女性と、90歳超の貧困独居頑固老女との奇妙な友情を描いた小説。老人福祉、人生の終焉に向きあう人間の尊厳といった重いテーマもあるが、全体的にハートフルコメディーとしてカラりと描いているのが意外と染みた。どこか天然ぽい主人公やちょっとした脇役まで「こんな人いるいる」と思わせるユーモラスな設定もうまい。派手な展開や凄みある描写は皆無で地味な作品だけども、ノーベル文学賞作家の芸の懐の深さを感じる快作。個人的にはかなり好み。2022/06/02
algon
12
母親や夫の死に際でさえほぼ人ごとだったビジネス一筋の雑誌編集幹部がふと知り合った孤独で高齢のお婆さんに魅かれ交流の深みにはまってゆく…。その付き合いは不潔極まりない住まいから始まり最後の病院まで周りの不可解の渦の中を突き進む。互いの感情のやり取りが非常に長く感じて終盤までが少々苦痛だったが、終盤ヘルパーたちの動く視点、いわゆる緩和病棟の看護師らのたたずまいなどは教えられる思いで読んだ。死まで必ず通る3段階。不公平、怒り、受容。この受容という概念を改めて新鮮な思いで納得させられた終盤だった。忘れずにいよう。2022/08/03
DEE
12
何もできないまま何もしないまま夫と母親を続けて亡くしたジャンナ。そんな彼女とひょんなことから接点を持った高齢女性モーディー。ひたすら厳しかったモーディーの人生と、そのキツい性格のせいでうまくいかない現在の生活。ジャンナは恐らくは罪滅ぼしのためにモーディーの面倒を見始める。 自分なら頑固者のモーディーの世話は無理。ジャンナが迷いながらも献身的に世話をするのは根本に愛があるからだろう。 死を受け入れていく二人の過程は心に迫るものがある。2020/04/18
白玉あずき
5
50代半ばという歳で、親も見送り、自分の老いを感じられるようになってから読むことができて本当に良かった。90歳すぎたモーディーが、猶死を受容できず不公平だと怒りにかられる様子、死に頑強に抵抗する肉体。貧しく恵まれなかった一生にも、最後まで残る尊厳。貧富、階級、性別、様々な社会的不条理を抱えたままの生の人間を、最後まで丸ごと抱え込んで看取ることができたジャンナの成熟。この作品を通して作者自身が老いと孤独に向き合う姿勢に、共感と感謝の気持ちを持てた。人は一人だが、共に老い病んで死ぬべき存在として一人ではない。2013/05/04
Sushi
2
老いへの怒り、老人に対する世間の扱いへの怒り、人生の不平等さへの怒り。シニカルでウィットに富んだ語り口でありながら怒りが全体を支配する。【私事】隣家でひとり暮らしをする祖母を敬う身なので他人事でなく。コロナ禍で旅行にいけなくなり、乳がんの手術をし、自転車でこけ、家の段差でこけ、祖母は思うように身体を動かせなくなった。ハードカバー越しに本人を伺いながら読む。この物語は何年/何十年後かに消化される。2021/12/16