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内容説明
第二次世界大戦下。ナチスに占領されたチェコの美しい小さな町、青年ダヴィトをかくまうヨゼフとマリエの夫婦…。ファシズムの嵐吹きあれる極限状況を、解放の日まで、愛と勇気と知恵で生き抜く人間たちを、ブラックな笑いとヒューマンな感動で描く。「過去の歴史」とは言えない「戦争」のなかの恐怖。にもかかわらず人間の尊厳をまもる勇気・寛容・誠実さ・おかしさに誰もが胸をうたれ、涙があふれる。実話をもとに描く人間ドラマの傑作。映画「この素晴らしき世界」原作。
著者等紹介
ヤルホフスキー,ペトル[ヤルホフスキー,ペトル][Jarchovsk´y,Petr]
チェコの新鋭作家。1966年10月6日プラハ生まれ。音楽芸術アカデミーの映画・テレビ学部を卒業。脚本・ドラマトゥルギーを専攻。映画の脚本家として知られ、現在同学部で教鞭もとる
千野栄一[チノエイイチ]
1932年~2002年3月。専門は言語学、チェコ語。東京外国語大学、東京大学、チェコのカレル大学を卒業。和光大学学長、東京外国語大学名誉教授を務めた
保川亜矢子[ヤスカワアヤコ]
1959年東京生まれ。専門はチェコ語学、チェコ文学。東京外国語大学卒業。現在、東京外国語大学非常勤講師
千野花江[チノハナエ]
1966年プラハ生まれ。チェコのカレル大学日本語科、英語英文科卒業。現在チェコ語と日本語の通訳、翻訳業にたずさわる
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Nobuko Hashimoto
24
同名の映画の原作。原題は「私たちは助け合わねばならない」の意。なるほど原題通りだった。コミカルな場面や意外な展開にチェコらしさを感じてにやりとする。作家が脚本を学んだ人だからか映像が頭にまざまざと浮かんだ。ただし始めの方の訳がぎこちない。一章の途中までを訳していた千野栄一氏の遺稿を手直しせずに採用したのだろうか。翻訳小説としての出来は残念な感じ。とはいえ、千野氏の映画パンフレット用の解説はチェコ愛に満ちていて、理解しにくさを補っている。映画もアクセスしにくいようだがきっと面白いはず。いつかゲットしよう。2021/04/18
かもめ通信
17
舞台はナチスの占領が続く第2次大戦中のチェコの小さな町。子どものいない夫婦がとあるユダヤ人の青年を匿うことになる。それは誰にとってもとっさの判断だったから、まさか戦争が終わるまで2年もの歳月を共に息を潜めて暮らすことになろうとは、このとき3人には思いも寄らないことだった。この地域では、数十万人がホロコーストの犠牲となったとされ、物語の背景にはそういう重く苦しい史実が横たわっている。いつの世にも完璧な善人も完全なる悪役も存在しない。一生懸命になればなるほど滑稽なのは、チェコ文学のお家芸なのかもしれない。 2015/01/11
sweetsnow
14
第二次世界大戦時、ナチス・ドイツの占領下にあったチェコを舞台に、チェコ人のメンタリティーを丁寧な心理描写で綴ってゆく。ここにあるのは、圧倒的な不条理を前に泣き暮れる弱者の姿ではなく、耐え難きを耐える美しい精神である。物語の最後、終戦に向かう世界は、赤ん坊の産声と共に解放されてゆく。その面前には、ただただ純粋な希望が、青い空の下にどこまでも広がっているのだ。2009/07/24
きゅー
13
危険を覚悟の上でユダヤ人を匿う、というストーリーの小説は何冊も思い浮かぶ。本作もそうした物語のうちの一作だが、戦争時の悲惨な体験を描いたシリアスな物語というよりは、ホームドラマのような体裁。このあたりの力の緩さ加減が珍しい。後半になるとさらにはちゃめちゃ具合に磨きがかかり、ヨゼフの驚きの発言からは、本気でこれはコメディなのではないかと疑うような展開に。その勢いのまま結末を迎える。『この素晴らしき世界』というタイトルは反語だろうと予想していたが、いやいやそんなことはない。この素晴らしき世界に乾杯!2013/10/15
やまはるか
6
サッチモの名曲と同じタイトルに惹かれて気楽な気持ちで風呂に持ち込んだ。ナチ占領下のチェコで2年間もユダヤ人をかくまった夫婦の話で、どのページも神経をすり減らすような緊張に溢れ、訳者がいうユーモアを読み解く余裕は全くなかった。「この素晴らしき世界」に出会えたのは200ページの最後の1ページ。ナチの犯罪に関わる小説は全読書の何パーセントかを占めるほど読んでいるが、こんなに辛く感じたことはかつてなかった。ようやく読み終えて、この素晴らしき世界に安堵している。2019/02/16