内容説明
したたかで皮肉たっぷりな老人と何を考えているかわからない若い召使が、密室の中で奇妙で倒錯的な物語を展開していく。そこには悲痛さも憐憫のかけらもなく、ひたすら痛快な小説の面白さがあるだけ。このような傑作を彼がエイズの残酷な闘病のまっただ中で書きあげたことは驚異であり、書くことで生き続けた強靱な意志には脱帽するばかりである。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
misui
6
功成り名遂げた老人が若い召使を抱えるが、この召使が曲者で老人は支配されていく…と筋立てだけ見ればありがちな話。しかし作者が死の床にあって創作を続けたエルヴェ・ギベールということで、作中で老人が衰弱していくのを召使が生かさず殺さず世話をする様子など、微妙に闘病生活が透けて見えるし、滑稽小説と称しているもののブラックすぎて慄然としたものを感じずにはいられない。死を前にすると「滑稽」もこうまで苛烈になるのだろうか。2013/01/11
nranjen
4
図書館本。微妙に40才ごろのエイズを患うギベールが80の病身の老人にずらされて物語が展開していく。このずらしと「滑稽」にこそギベールの渾身のユーモアがあるような気がしてならない。緻密に現状を記録し続けた「あわれみの処方箋」と対をなして考えると、心身苦しい状態で最後まで書き続けよう、記録するだけではなく創作しようとするギベールの気概が感じられてならない。2019/02/09
なる
3
若くして他界した著者の最晩年に書かれた作品。エイズと合併症の苦しみが続くなかで書かれたと思わせない流麗な文章の中に少しだけ介護を通じた闘病が垣間見える。冒頭からしばらく老人と召使のほのぼのとした、ちょっとクスッとするエピソードが続くが、ある時期から一転してゾクッとする話に変わっていく。 小説の前に写真集が併録されており、倒錯した天使のような息を呑むのほどの美しさ。2020/03/17
渡邊利道
2
ギベール の書いたほとんど唯一の純然たるフィクション。80過ぎの金持ちのじーさんが、若い美青年を召使として雇い、遊びのつもりがどんどん依存/支配の入り混じった関係に落ち込んでいく。とにかく文章がうまくて、この類の作品をもっと書いてくれてもよかったなあと思ったりもした。2020/09/01
ウエノ
1
ギベールという人を知らないまま読んだので最初は暗い本だなと思っていたが、あとがきを読んでなるほど、と思った。ギベールという人間に興味が湧いた。2015/02/11