内容説明
文学の師・太宰治の墓前で37歳の秋、自裁した亡父・田中英光への鎮魂歌。失われた父の像を描くことで、自らのアイデンティティと再生を語る著者初の「私」小説。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
読書国の仮住まい
5
今まで私小説は書かないと決めていた著者。 それは同じ作家であった父親からの存在があった。 無頼漢な生き方をし、最期は文筆の師匠である太宰治墓前で睡眠薬を飲み手首を切る自殺で亡くなった父。 ある種のわだかまりを抱きつつ、それを消化させるべくこの小説を書き上げる。 作品自体は有人最南端の波照見島で、父の想いを話す老人と対話し、和解を果たすといった感じ。 巻末に30ページほど費やし、著者本人がどのような経緯や背景があってこれが書かれたかを記す。 まさか20年後、ご自身がまた先祖の墓前で自殺を図るとは皮肉なもの。2024/02/03
yoyogi kazuo
2
田中英光の子でSF作家の著者が、沖縄の離島で父との再会を果たすまでの追想。文章が読み易く、すんなり読めた。生前はほとんどまともに接することのなかった父の人生に対する作家の目からの客観的な筆致に静かな感動を覚えた。まさかこの二十年後に著者が先祖の墓前で自殺を図ることになるとは・・・2021/05/16
浅西マサ
1
お盆なので再読。田中英光の遺児で流行作家だった田中光二が亡き父と自らの生い立ちを求めた作品。昭和の無頼派作家だった父と本人曰く「柿の木が熟したように物書きに」なった息子の流れを読むと、血筋というのはあるのだなと。その血筋の忌まわしさや誇りに葛藤しながら、たどり着いた波照見島で一人の老人と出会い会話するのだが、途中の会話の性急さに謎解き(でもないけど)がすっかりわかったしまって「そうなんだろうな」と読んでしまった自分ですが、この作品にたどり着く為に著者に文才の血筋が与えられたのかもしれませんね。2019/08/19
kokada_jnet
1
父・田中英光の評伝的部分と、著者の分身の主人公が波照見島で「父の生まれかわり」の老人と出会う話とが、まざりあっているが。後者があまり成功していない。「あとがきにかえて」として収録してある手記「父・田中英光との「和解」」のほうが興味深かった。2011/05/22
geki
0
南の島に行き、父らしき影に出会い、太宰を追って自殺した父を理解し、自らの死を思いとどまったはずなのに、実際に自殺を図った作者の闇は我々には知りようがない。2012/08/13