内容説明
中野重治から島田雅彦まで―“左翼”のイメージの変容をたどり、現代文学の最先端部にいどむ。名著『戦後史の空間』につづき、“高度成長期以降”の文学状況を問う挑発的な長編評論。
目次
第1章 ある理想主義の運命―大西巨人『天路の奈落』をめぐって
第2章 “わが家”の内と外―中野重治・佐多稲子・平野謙
第3章 恋愛小説の条件―中里恒子『綾の鼓』と芝本好子『隅田川暮色』
第4章 日本列島の夢と現実―黒井千次『時間』から『群棲』へ
第5章 パルチザンのゆくえ―高橋和巳から桐山襲へ
第6章 ベトナム戦争論の文脈―筒井康隆『ベトナム観光公社』を中心に
第7章 “政治と文学”論争以後40年―立松和平と村上春樹の位置
第8章 島田雅彦という装置―相対性の極限
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
miunac
3
中野重治と平野謙を拾い読みしてたらいろいろ混乱してきたので、もう少し後の時代の本を読んだ。磯田光一の論の一方の柱は、経済成長の余沢によって左翼の目的であった解放するべき大衆は消滅した、従って旧来の左翼は成立し得ないとする。バブル初期の認識としては説得力があったのだろう。その後経済が壊滅し資本主義が収奪の道具としかならなかったことを知らずに済んだ磯田は幸いであった。もうひとつの柱は左右両翼が持っていた道徳心だが、今となっては両者がそれぞれの道徳心の高さを誇っている。島田雅彦的ニヒリズムこそ一過性であった。2021/06/08