出版社内容情報
何を見ても、失った「あの人」のことを思い出す。
恋人を失った「わたし」。喪失感を埋めるかのように、何を見ても「あの人」に結びつけ、繰り返し思い出を辿る…。虚実の記憶が混ざり合う中、ゆるやかに再生する女性を描く表題作他1編。
内容説明
「あの人」を失ったことを誰にも言えぬまま保育園で働く「わたし」。恋愛の美しい記憶を反芻し、袖をぬらしながらも、同僚の和紙の方と酒宴にむかい、保育士仲間での恋愛の自慢話や噂話に興じる。「俗なる日常」のなかでの、魂の彷徨―。
著者等紹介
鹿島田真希[カシマダマキ]
1976年、東京都生まれ。白百合女子大学卒業。1998年、『二匹』で第35回文藝賞受賞。2005年、『六〇〇〇度の愛』で第18回三島由紀夫賞、2007年、『ピカルディーの三度』で第29回野間文芸新人賞、2012年、『冥土めぐり』で第147回芥川賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
そうたそ
36
★★★☆☆ 何とも感想の書きにくい作品……。失ってしまった「あの人」を考えることをやめられない女性の一人語りですすめられる表題作。現代的でありながらも、古風にも感じられる独特の文体が特徴的である。他の方も書かれているが、「枕草子」を思い出すような語り口であり、決して話に起伏のあるようなものではないのだが、不思議と心にスルリと入ってくる感じがある。併録の「酔いどれの四季」は表題作とは対照的なテンションで繰り広げられるBL作家とその編集者との連載小説の打ち合わせ模様。こちらのほうがとっつきやすい。2016/06/20
coco夏ko10角
28
著者作品はいくつか読んで合わないかなぁ・と思い離れていたけど、メッタ斬りで興味を持って手に。 『その暁のぬるさ』すごくよかった、こういうことができるのが小説の面白さ。 『酔いどれ四季』暁とはまた違う方向に楽しかった。2016/04/10
3939タスタク
21
この取っ付き難さが純文学って物なのか?と、思うほど掴みにくい『その暁のぬるさ』ですが、女性の厭な部分がクローズアップされた作品だと思いました。幼くとも女としての本能が根付いている辺り、男とは違う存在なのであろう。だから女性は奥が深く、解らない事だらけだ。 『酔いどれ四季』は、ボーイズ・ラブ作家を主人公に描いた作品ではあるが、作者の悦びや苦悩、そして担当編集者との奇妙な関係が、自分の中の下世話な部分を随分と刺激させる作品でした。2013/02/02
たぬ
15
☆4 鹿島田氏13冊目。表題作の主人公である保育士の女性は仕事もプライベートも無理せず周囲から浮かない程度にマイペースにやっている風ではあるのだけど、どこか自分を偽っているような感じにも取れる。併録の「酔いどれ四季」はアラフォーBL作家と若く美男な編集者の語りがメイン。トータル15頁半にわたる編集者君の言説がぶっ飛びすぎててすごかった。どうも鹿島田氏はBLや百合だと生き生きしてくるみたい。2020/07/30
...
12
枕草子や百人一首のような、平安〜鎌倉時代のセンスがそのまま憑依したような語り口に妙味があった。袖を濡らしてしまいそうだ、とか今の時代に誰がいうんだろう。ちょっと知的なギャグ。アイデア一発勝負。80ページもあると流石に退屈になってくるが、その退屈さも、今我々が古典文学を読んだ時に感じるクドさ、退屈さに通じるものがあり、そこもちょっと、感心したのだった。2013/04/15