出版社内容情報
26世紀、「単一国」に統治された世界。人々は監視下に置かれ疑問を持たなかった。だが主人公はある女性と恋に落ち、世界の綻びに気づく。1920年代ロシアのディストピア小説の先駆的名作。(解説/中島京子)
内容説明
そこ「単一国」では「守護局」の監視のもと、「時間律令板」によって人々の行動は画一化され、生殖行為も「薔薇色のクーポン券」によって統制されている。自然の力は「緑の壁」によってさえぎられ、建物はガラス張り。人々に名前はなく、ナンバー制だ。そして頂点に君臨する「慈愛の人」に逆らう者は、「機械」によって抹消される。―1920年代初頭にロシアで書かれたディストピア小説の先駆的名著。
著者等紹介
ザミャーチン,エヴゲーニイ[ザミャーチン,エヴゲーニイ] [Замятин,Евгений]
1884年ロシア生まれ。ペテルブルク工科大学に進学し、革命運動に参加、投獄される。卒業後、造船技師として働きながら小説を発表する。1920~21年にかけて『われら』執筆。22年逮捕ののち無期追放処分の判決を受けても国内に留まるが、31年活動の場を失い、スターリン宛の国外脱出を望む手紙をゴーリキーに届けてもらい出国。37年フランス・パリにて逝去。88年ペレストロイカにより、本作を収録した初の作品集がソ連で刊行された(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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1 ~ 3件/全3件
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
まふ
119
物語は独裁者「慈愛の人」に指導される「単一国」に住む機械技師D503号(国民は番号で呼ばれる)の独白形式で進む。国全体は数理で統治されて情緒的な「感情」はすべての局面で忌避される。女性との交際も15分間という短時間で処理され、すべてがマニュアル通りの生活となっている。「満場一致の日」は反対票ゼロの見せかけの選挙であり…と、その姿は今日の中国、ロシアそのものであり、著者の先見の明に驚くとともにロシアの国としての「不幸」を思わざるを得ない。第1級のロシア発デストピア小説である。G1000。2023/12/23
KAZOO
114
ブラッドベリやハクスリー、オーウェルのディストピア小説の分野に類する本なのでしょう。1920年代にこのような本がロシアで出版されていたとは驚きです。ある意味このような社会は今後近未来に起こる可能性がないとは言えません。よくまあこのような予測を立てて小説にしたことを感心するばかりです。2018/09/03
拓也 ◆mOrYeBoQbw
26
ディストピアSF長篇。ハクスリー『すばらしい新世界』と並ぶ”意識的に描かれたディストピア”のパイオニアとなった作品で、以前も書きましたがこの2作で”ディストピア要素と形式を完成させた”傑作になりますね。数学と合理性が大戦後の支配し、性がコントロールされる世界で、数学者であり宇宙船の制作責任者の日記という形で綴られる物語。序盤はコメディ調に新世界が描かれ、不安と恐怖に変わり、救いのない結末へと続く型も完成されていて、尚かつ著者特有のロマン詩人的な語り口が、味気のないディストピア世界に様々な色彩を与えてます。2018/05/15
SIGERU
24
ディストピア小説の古典。ハクスリーやオーウェルに先駆け、1920年に書かれた全体主義批判小説。読み進むにつれて、そんな先入観は修正されていった。むしろ、人物の名を記号化する、あるいは容姿を幾何学図形であらわすなどの、前衛表現が特徴的。カンディンスキーなどロシア抽象絵画を想起させる。ザミャーチンは、文学でアヴァンギャルドを実践したのだ。この小説は、事件だけを追えば単純な構図。しかし、装飾過多の詩的散文が、作品世界に美しい錯乱を齎している。主観的な語りが、現実と幻想のあいだを自在に行き来し、境界を曖昧にする。2021/08/14
川越読書旅団
22
「守護局」に徹底的に監視を受ける「単一国」の世界。国民はナンバー制と「時間律令板」により完全統制下に置かれる、、、。明らかに当時のソ連の体制を揶揄した設定ではあるのだが、構成主義要素が功を奏してか近未来感溢れる言葉選びや情景描写で現代SF作品的に読めるのも面白い。また、オーウエルの「1984」以前に書かれた作品である事実にも驚きを覚えるわけで。2023/11/11