出版社内容情報
悪行を繰り返す独裁者の哀しい素顔
長きにわたった独裁政権が終焉を迎えた。独裁者が行ってきた数々の悪行、奇行が複数人物の語り・回想によってつまびらかになるにつれ、怪物とされてきた大統領の真実の姿が明らかになる。
内容説明
大統領は死んだのか?大統領府にたかるハゲタカを見て不審に思い、勇気をふるい起こして正門から押し入った国民が見たものは、正体不明の男の死体だった。複数の人物による独白と回想が、年齢は232歳とも言われる大統領の一生の盛衰と、そのダロテスクなまでの悪行とを次々に明らかにしていく。しかし、それらの語りが浮き彫りにするのは、孤独にくずおれそうなひとりの男の姿だった。
著者等紹介
ガルシア=マルケス,ガブリエル[ガルシアマルケス,ガブリエル][Garc´ia M´arquez,Gabriel]
1928年生まれ。コロンビアの小説家。新聞記者としてコラムや特派記事などを多数執筆する傍ら創作活動を開始する。初期の代表作『大佐に手紙は来ない』の完成後、魔術的リアリズムの頂点と謳われる『百年の孤独』を発表。1975年、“独裁者小説”の傑作『族長の秋』を完成させる。1982年、ノーベル文学賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
263
まず、何もかもが過剰な小説である。イメージの氾濫、煌めき、そしてそれらが収斂することなく物語世界がモザイクのように拡散してゆく。この世界はまさしく熱帯雨林のイメージそのものだ。多様な植物が過剰に繁茂し、その下影にもシダ類が繁殖し、またどこにどんな動物が潜んでいるのかわからない。空中や地上には綾なす色彩に溢れた鳥も飛び交うし、川には魚類や爬虫類も数多生息するだろう。訳文ではあるが、おそらくはスペイン語原文も、いつ終わるともなく連綿と果てしなく物語を語り続けるのだろう。荒廃しながらも廃墟にはならない神話だ。2014/04/23
nobi
100
どの頁にも会話の引用符も行替えもなく、伸び放題絡み放題の熱帯の植物のようにぎっしりと文で埋められている。ただ時間が前後しても現実と空想が錯綜しても話し手が明示されなくても、うねりがあり息遣いが聞こえてくる(その呼吸を捉えた訳も見事)。独裁者の横暴は当の文体の如く増殖する。その繁茂は腐敗を滋養とし大いなる倦怠大いなる孤独に囲まれている。その大統領をも憐れに思わせるほどのナサレノとサエンス=デ=ラ=バラの登場。愚行と冷酷非道の根は=作家のイマジネーションは、熱帯植物の勢いを削ぐほどに地中深くに張り巡らされる。2018/06/30
小梅
100
いやいや読むのに時間かかりました。私にはまだマルケスを読むレベルまでには成長が足りないんだろうな…腫れ上がった睾丸のヘルニアってどんなものか解らないが、とにかく痛そうで痛そうで可哀想になりました。2014/08/06
(C17H26O4)
85
濃い血の臭いが全編に漂う。子供の大量虐殺とか国防総長のオーブン焼きとか色々おぞましいことこの上ない。だがそれ以上に恐ろしいのは、この物語にどこか真実味を感じるところだ。独裁者に名前がなく、語り手が度々不意に変わることもそう思わせる一因だろう。絶大な権力、利権を貪る側近。市井の人びとの恐怖と絶望の中に見られる慣れや無関心。それでも営まれる日常。独裁者の存在を人びとが必要としているようにすら思える。残虐なのにも関わらず独裁者の孤独に悲哀を感じ、救いがないのにユーモラスでもある。思えばそのことも恐ろしい。2021/11/10
コージー
76
★★★☆☆ノーベル文学賞を受賞したコロンビアの作家ガルシア・マルケス。マルケスの作品の中で最も難解とされる「族長の秋」。100年以上、大統領に君臨した独裁者の物語。権力者としての孤独と猜疑心をふり払うかのように、たてつく者を虐殺していく。段落や会話のカギ括弧がまったくなく、時間の流れも縦横無尽に書かれているのが特徴。10巻の歴史小説を読破した時くらい脳に汗をかく作品。残虐非道な所業さえもコミカルに感じたが、このような修辞的な表現が味わいなのだろうか。【印象的な言葉】死への恐怖は、いわば幸福の埋火なのです。2018/09/19