内容説明
第二次世界大戦中、ソ連の捕虜となったポーランド人将校数千人がソ連内のカティンの森で密かに虐殺された。そのなかに、フィリピンスキ少佐がいた。だが、この事件を知らない少佐の娘ニカは、母と祖母と一緒に少佐の帰還を空しく待ち続けていた。やがて彼女の前にある過去を持った青年が現れる…。美しく悲しいニカの恋の物語と共に、ポーランド史の暗部を巧みに描き出す。
著者等紹介
ムラルチク,アンジェイ[ムラルチク,アンジェイ][Mularczyk,Andrzej]
1930年ワルシャワ生まれ。50年代から映画、放送ドラマの脚本を多数執筆。TVドラマ『家』の脚本で脚光を浴びる。80年代からは小説に転じる。代表作は戦争に翻弄された人々を描いた『ポーランドの愛さまざま』など(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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燃えつきた棒
41
アンジェイ・ワイダ監督の同名映画(2007年)を観たことがある。ワイダ監督の父君ヤクプ・ワイダ大尉も、この事件の犠牲者の一人だ。この物語は、ワイダ家の物語でもあるのだ。 あらすじを書くことには興味がない。 今回は、ヴァルター・ベンヤミンのように書いてみたい。/ 2022/03/18
TATA
39
カティンの森は日本人から見ると理解が難しい部分もあるが、地図を広げればその要因がよく分かる。独ソに挟まれたということがあの時代にどういうことを意味するか。更に悲劇性を強めるのがポーランドは終戦後も東側の一員であり、真実に辿り着けなかったということ。先日訪れたリトアニアの博物館も同様の展示だった。物語はカティンで虐殺された父親の帰還を待ち続ける家族。真実を追うあまり反体制の烙印を押される。何が真実かというよりもこういった悲劇があっただろうことに思いを寄せる。2019/05/29
みねたか@
29
第二次大戦時3つの収容所で合計9千人以上のポーランド人がソ連に虐殺された。過去の戦争の遺恨か,軍人・知識人階層の破壊を意図したのか?被害者とされる将校の家族。息子の死を受け入れられない母,真相を見極めたい妻,新たな人生に向かいたい娘。そこに絡むカティンから生還した将校とバルチザンあがりの青年。二人が物語に推進力を与え,かつ,終戦からソ連支配が確立していく時代の緊迫感を教えてくれる。心理描写を抑制し,カフェ,雑踏などでの会話と情景の描写で鮮明なイメージが伝わってくる。まるで映画を見るようだ。2018/12/20
ちゃま坊
21
事件の詳細は分かりにくいので、巻末にある解説で予習してから読むのがおすすめ。■1940年ソ連がカティンで大量虐殺。■1943年ドイツが見つける。■1945年戦争に勝ったソ連はドイツのしわざと主張。独裁政権の支配下でウソにウソを重ね、タブーを侵そうとする者は逮捕される。■1990年ソ連崩壊で真相が判明。被害者の娘が現場を訪れ回想する。2023/09/06
Wisteria
18
読む前に軽くカティンの森事件について調べてから入った。事件で死亡した将校の母、妻、娘が女三人で帰りを待つ物語。本当は亡くなっていると知りながら真実を求めるアンナと、そんな母に反発するニカ。知らぬが仏なんじゃないかとハラハラする場面もあったけれど、どんな形でも決着は必要なのかもしれない。ヤロスワフとユルがどうなったのか分からないまま終わってしまったが、そういう時代だったのだという事がより強く感じられた。2017/07/24