内容説明
湖南省の山岳地帯。百キロの難路を三日かけて歩き、長年手紙を届け続けてきた老郵便配達。息子に仕事を譲る決意をし、初めて息子を連れ、最後の配達の旅に出る…美しい自然の中に生きる純朴な人たちとの交流、無口な父子の情愛を感動的に描き、映画化された表題作を含む、変わり行く現代中国に生きる人々の暮らしを鮮やかに切り取る六篇。
著者等紹介
彭見明[ポンジエンミン]
1953年、中国湖南省生まれ。作家。俳優、舞台の電気技師、美術工、文芸指導者を経て、96年から湖南省作家協会に勤める。表題作「山の郵便配達」で83年全国優秀短編小説賞、荘重文文学賞を受賞。高い評価を受け、評判となる。長・短編小説、エッセイなど多数
大木康[オオキヤスシ]
1959年生まれ。東京大学東洋文化研究所教授。東京大学文学部卒業、同大学大学院博士課程修了(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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のっち♬
126
湖南省を中心に変わりゆく現代中国に生きる人々の営みを描いた6篇。百キロの難路を3日で歩く郵便配達人を扱う表題作は寡黙な父子の絆の描き方が絶品。女性視点の『沢国』は少し印象が薄いが描写の美しさは通底している。改革開放経済に揺れる世相を切った『南を避ける』『振り返って見れば』は世代間・男女間の埋め難い溝が陰を落とす。後者と、文化大革命に命運を翻弄される寺子屋教師を描いた『過ぎし日は語らず』は余韻の含みがよく効いている。シュールな不条理にほんのりと滑稽味を盛り込みつつロマンチックの極致へ着地する『愛情』も傑作。2023/12/06
NAO
66
年老いて仕事を辞めることになった郵便配達夫が、引き継ぎのため、息子と共に歩く山道、小さな村の人々との触れ合い。寂しくも、心ひかれる風景。老郵便配達夫の心に浮かんでは消える様々な思いが、静かに、丁寧に綴られていく。他の短編も湖南省が舞台だが、どの話も、作者の独特の語りに引き寄せられ読み終わってみると、目の前に今読んだ風景が、静かに浮かび上がってくる。2017/10/17
ざるこ
45
6篇。山岳地帯100キロの悪路を3日かけて手紙を届ける。年老いた父親は息子へと仕事を引き継ぐため最後の配達へ。手紙を待つ人々のもてなしや難路ながら体に染みこんだ歩き慣れた道。心に湧きたつ寂しさ。誇りをもって生業に向き合ってきたことが窺える。お気に入りは「沢国」2度読んだ。嫂と2人で漁に向かうどうともない物語なんだけど。八百里の草原、生臭い湖、落日、星々。とにかく情景が美しい。風や波や最後の微笑ましい音まで自然と共に生きる姿に癒されます。文化大革命時代の人々の独特な思考が垣間見える作品群はなんだかユニーク。2020/08/28
キクチカ いいわけなんぞ、ござんせん
35
何と!今年読んだ短編集でベスト1は「掃除婦」だったのに、ここで勝るとも劣らない作品が!山の郵便配達は映画になったけど、他の作品もとても雰囲気があって人生の厳しさを切り取っていて、それでいて押し付けがましくなくてとてもいい。中国がこれからバブルを迎えようとする夜明け前の頃の話。「南を避ける」は、「さくらんぼのように」熟した次女を、南の都会に行って「あそこがぐちゃぐちゃにこわれて」しまうのを恐れる父親の話。都会を偵察に行った父親が見る消費の世界。それがいいとも悪いとも判断がつかないまま時間は流れる。秀作。2019/11/02
syota
33
NAOさんのレビューに惹かれて手にした現代中国作家の短編集。派手さはないが、どの作品もしみじみと心に染みわたる。中でも山間僻地に長年郵便を配達してきた老人が、後を継ぐ息子と仕事の相棒でもあった犬を連れて最後の配達に出かける表題作は、老人の過酷な人生の回顧や息子、犬との心の交流が胸を打つ。また、日中戦争から共産革命、文革といった歴史の大波に翻弄された知識人の晩年を描いた「過ぎし日は語らず」や、洞庭湖の雄大な自然描写が秀逸な「沢国」なども、中国ならではの題材を扱って印象深い。読んでよかったと思える一冊だ。2017/10/27
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