内容説明
本書はチェコ出身の現代ヨーロッパ最大の作家ミラン・クンデラが、パリ亡命時代に発表、たちまち全世界を興奮の渦に巻き込んだ、衝撃的傑作。「プラハの春」とその凋落の時代を背景に、ドン・ファンで優秀な外科医トマーシュと田舎娘テレザ、奔放な画家サビナが辿る、愛の悲劇―。たった一回限りの人生の、かぎりない軽さは、本当に耐えがたいのだろうか?甘美にして哀切。究極の恋愛小説。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
372
タイトルにも表れているように、多分に理屈っぽい小説だ。物語の時間の進行も、直線的に流れて行くことはない。行きつ戻りつしながら、また時おりは夢が現実に混入したりしながら、全体としてはたゆたうように終息に向かって行く。「軽さ」に価値が置かれているのだが、物語世界はかつてのチェコの政治状況の中で重く暗い。チューリッヒへの脱出を果たしながら、プラハに戻り、さらには辺境の村へ。トマーシュとテレザの生は、はたして重かったのか、あるいは「存在の耐えられない軽さ」の内にあったのだろうか。奇妙で不思議な読後感の小説だ。2013/03/18
遥かなる想い
343
「プラハの春」の時代の東欧の重苦しい 雰囲気とは裏腹に、 外科医トマーシュは女性との関係にうつつを 抜かす。 全てが「軽い」トマーシュを通して、著者は 何を描こうとしたのだろう..男女の関係も ひどく軽く、だが会話は哲学的で この アンバランスさが本物語の特徴なのかも しれない。テレザとの関係も不可思議で 読者素知らぬ顔の、堂々の物語だった。2016/07/18
夜間飛行
209
人生から恋を閉め出したトマーシュが、自分のベッドで発熱した田舎娘に同情する。彼女との関係は一度きりの人生の問題だが耐えられないほど軽い偶然でもある。そのテレザは母の生から自分の生を切り離すため偶然を求め、もう一人の女性サビナは裏切りに美と真実を見出す。人はそれぞれの軽さを生きるしかない。この小説を読むと愛の中の絶対的孤独に気づかされる。愛の場面にそっと挟まれる比喩やさりげない情景は愛への賛歌というよりむしろ哀惜である。動物の死をこんなに愛情深く書いた小説を知らない。それは人の愛に対する葬送歌にして誕生歌。2018/09/02
さゆ
179
クンデラによれば、人生を一回きりとするとそれは起こらなかったようなもので価値はないに等しい。しかし、永劫回帰を例にとると、人生は繰り返されるため命は軽さから重さに変わり、生きることを肯定できるのだという。夕日は繰り返し見るからこそ懐かしいという気持ちと共に肯定できるのだ。最近は親ガチャという宿命論がいわれ、生きることの不幸に焦点が当たっている。仏教でも人生は四苦八苦で、それもまた事実だ。だが一方、生きることが繰り返しだとしても、生まないことで失われる幸福、「幸福の逸失利益」は蔑ろにされていいのだろうか。2024/01/20
優希
148
深く哲学的に恋愛を語っている印象です。登場人物は少ないのに展開は濃密。繰り返されるモチーフがあり、そこに正面からテーマをぶつけてくるようでした。人間という存在は軽さでしかないのか、それともたった1度の人生におけることが限りない軽さなのかを考えさせられます。弱く、重くなろうとすることで、軽さから逃れる道を見つけようとしているようでした。愛において重くなることで軽さを求め、軽くなることで重くなろうとする。そんな狂想曲が流れているような究極に迫る恋愛小説のように感じます。だからこそ美しいのかもしれません。2016/08/12