内容説明
16歳の黒人娘セリーは、名も知らないミスター**のもとへ嫁がされ、夫の暴力の下で毎日を耐えていた。愛する妹も夫に襲われ、彼女は失意のまま、アフリカへ渡った。……黒人社会の中に巻き起る差別、暴力、神、性といったすべての問題にたち向い、やがては妹との再会を信じ、不屈の精神を糧にするセリー。女の自由を血と涙で獲得しようとする女性を描く愛と感動のセンセーショナル・ノベル。ピューリッツァ賞、全米図書賞受賞。ペーパーバックスで既に400万部を突破した。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
313
神さまへの手紙、また妹ネッティーからの、あるいはネッティーへの手紙といった形式をとったことは成功しているだろう。セリーの内面が語られることと、彼女の孤独がそこに浮かび上がるからである。解放後も南部では黒人たちは依然として低い位置に甘んじ、さらに女性たちは人種差別構造に加えて(そうであるがゆえに一層に)徹底した性差別の中にあった。それはよく伝わる。ただ、シャグの存在と、小説の後半に(特に最後は)状況が明るく好転するのは共感的にはいいものの、小説として見れば甘さの感を禁じ得ない。評価は絶大なのだが。2017/06/07
ケイ
129
最初は本当に酷いのだが、それでも悲劇とは違う何かを感じた。まず、彼らには食べ物がある。主人公のセリーは、腕力でも性的にも暴力を受けても、彼女の価値をわかってくれる人がいた。男性やその運命に対し盲従していたサリー。この作品が素晴らしいのは、主人公だけでなく、歩調は違いながらも周りの人も変化し、その変化によって少しずつ幸せになっていくことだ。同性愛的な話も、彼女の周りに大きなファミリーを形成していく中の一つと思える。バラバラにきしんでいたあちこちの歯車が、少しずつ噛み合ってうまく回り始める素敵な現代のお伽噺。2016/04/27
まふ
119
黒人への人種差別問題というより「黒人内部の男性に虐げられる女性問題」と「アフリカの黒人へのアメリカ黒人との差別感」という黒人社会内問題というところが興味を引いた。女性をセックスの対象としか見ない男性どもの一方的な女性への扱い方は読んでいてうんざりするが、それをかいくぐってしたたかに生き延びる女性たちの逞しさをむしろほめたたえるべきだろう。トニ・モリソンの描く世界とはかなりギャップを感じるが、このような「結果オーライ的・オトギバナシ的作品」があってもいいかもしれない。G681/1000。2025/01/13
NAO
61
黒人社会での家庭内暴力、女性蔑視。人種差別と無知と貧困からくる彼らの愚かしさ。虐げられている者は、さらに自分より弱い者を虐げる。こういった最悪の連鎖の底にいる黒人女性たちは、何に生き甲斐を見出したらいいのか。どうやって自分らしく生きていけるというのか。これは、その一つの形。再び家に戻ったセリーが少しずつ夫と話す話が、すごくよかった。セリーにとっては加害者でしかなかった彼も、また、アメリカ社会の被害者だったのだとつくづく感じる。2016/11/10
Miyoshi Hirotaka
50
時代は明確に示されないが、奴隷解放宣言から一世代後をスタートとするアフリカ系黒人女性姉妹のドラマ。キング牧師の公民権運動はこの二世代後。この頃、黒人女性はまだまだモノとしての扱い。家庭内での性暴力、強制的な結婚や養子縁組が日常だった。さらに、黒人の敵は白人だけではなかった。努力で教養を身につけても無自覚に白人の側について故郷アフリカの伝統社会の破壊や分裂に加担してしまう場合もある。それぞれの黒人に選択と運命があった。人種や境遇に関わらず、選択の機会はある。それを自分で選べるのが意志の力で、自由であること。2023/07/16