感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
しゅん
14
ゴールディングの三作目。『後継者たち』に次いで、記述の困難な意識の在り方をどのように言葉にしていくかに挑んでいる。戦争のさなか溺れた男の混迷した幻想がシームレスに続いていく。しかし、ウルフのような「意識の流れ」とは異質のものであるという感じを受ける。それは本作が完全に個人の意識に寄り添っているのと同時に、どこか即物的な印象を与える文体を持つからだろう。その文の特徴は動物の死骸や甲殻類の生物が登場するところの具体性に特に顕著。最後の展開は予感してたのだけど、それでも何が起きたのか一瞬わからなかった。2018/10/23
しゅん
13
再読。二回読むと描写から状況が飲み込めて後半からかなり面白く読んだ。視界が常に制限されている感覚が幾度も描かれ、マーティンがしがみついている大西洋の孤岩もあまりに狭い。その風景がなぜかやたら変容する理由は後半になり明らかになるわけだが、この狭さは初期ゴールディング作品に常につきまとうものだ。それは近代的な知性の「狭さ」とも、世界大戦を引きずった暗い閉塞感の「狭さ」とも同義にあるように思える。それにしても、マーティンの下劣さはわかりやすすぎるくらいだな。2019/01/10