出版社内容情報
思い悩み、行動できない須永と、純粋で行動的な千代子。煮え切らない須永の恋愛を軸に、自意識を持て余す近代知識人の苦悩を描く。漱石後期三部作の第一作。(解説/三浦雅士 鑑賞/島田雅彦)
内容説明
大学を出たが職のあてのない敬太郎は友人須永の叔父、田口を頼る。「探偵」の仕事を請け負った彼はある人物の尾行を命じられる。その男、松本は田口の義弟で、須永と同様、高等遊民の暮らしをほしいままにしていた。都会の知識階級の自我をめぐる苦悩を、漱石自身に重ね合わせながら丹念に描き出す。生死の境を彷徨った「修善寺の大患」後の作品で、亡き娘、ひな子と親友、池辺三山の霊に捧げられた。
著者等紹介
夏目漱石[ナツメソウセキ]
1867~1916。江戸・牛込生まれ。生後すぐ里子に出される。東京帝国大学英文科卒業。1900年から3年、ロンドンに留学。05年『吾輩は猫である』を発表、好評を得る(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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あやの
53
石原千秋さんの講演を聴いて、改めて夏目文学に興味が湧いたので。漱石の大病後に書かれたということで、一つ一つに深みがあると感じた。明治時代の若者や高等遊民の心情を丹念に描いている。メインは須永の話か。千代子のまっすぐな思いに対する須永の態度にイラついてしまうが、須永も苦しんでいたことが分かる。それにしても何も解決しない話だな……というのが正直な感想。劇的なオチやどんでん返しに慣れた私には「?」な所も多いが、当時を生きた人々の生々しい感情に触れられた気がする。2022/12/27
aika
42
ミステリアスな空気感に満ちたこの作品を新聞連載当時に読んでいたら…敬太郎の詮索好きな気性にも助けられて、続きが気になって仕方がないはずです。敬太郎の友人・須永の叔父にあたる松本を襲った、幼い娘を突然失う悲しみ。漱石の精魂尽くした筆致による、涙が滲むような雨に降られる光景が印象的でした。また、口に出して伝えられない従妹・千代子への愛に深い苦悩を塗り重ねるような須永の懊悩のそこはかとなさには、読後も地続きのような物思いが止められません。集英社版の美しく淡い装丁が、物語に彩りを添えているようでお気に入りです。2021/01/11
ホシ
22
今年に入って漱石が頭から離れず、本作を手に取る。漱石に魅力を感じるものの、その正体がいまいち掴めなかったが、本作の三浦氏の解説を読んで、腑に落ちるものを得られた。氏曰く、本作を含む後期三部作は「承認をめぐる闘争」の作品とのこと。「他人は自分をどう見ているか?」この問いの阿呆らしさは大人になれば誰でも理解できる。しかし、漱石にとっては、この事が大問題であった。私も他人の目なんか気にもしたくない。でも、気にせざるを得ない。そんな葛藤を漱石に見透かされているようで、それが私が漱石に魅力感じる理由かな。2017/03/20
ぐっちー
17
自分の内側へ内側へとトグロを巻きながら降りてゆく須永。自分の苦悩をつぶさに観察して陳列してみせる。言葉の一つ一つがあるべき場所に正しく置かれていて心地よかった。「純粋な感情ほど美しいものはない。美しいものほど強いものはない」最後は希望が見える。2015/03/21
あいくん
16
☆☆☆☆夏目漱石の「三四郎」から「それから」「門」「彼岸過迄」「行人」「こころ」「道草」「明暗」までの作品は過去何度も読んできました。このなかでは、「彼岸過迄」「行人」はそれほど読んではいません。3年ぶりに読みました。敬太郎は大学を卒業しますが、仕事を見つけるのに東奔西走しています。6畳の部屋に暮らしています。敬太郎は探偵のようなことをします。停留所で松本と待ち合わせていた女は千代子です。千代子の後ろ姿にも敬太郎は惹かれます。千代子は恐ろしいことを知らない女だと須永は言います。恐れない女と恐れる男です。2020/10/11
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