内容説明
美しくなまけものの仁。しかしその身についた気品をバンド仲間は愛した。彼を亡命中の異国の王子に仕立て虚飾に満ちたパーティーに繰り出した夜…。都会の遊民の心に去来する甘美な死への郷愁を描いた「安南の王子」など、夭折した著者の代表的短編5篇を収録。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
メタボン
32
☆☆☆☆ 初期の短篇「バンドの休暇」「安南の王子」は若者のアンニュイな気分や世相をナイーブな文章でつづる。山川方夫の才能が迸っている。一方後期の「最初の秋」「千鶴」「Kの話」は、暗い雰囲気の中、心情描写が鋭く、流石に読ませる名作揃い。知恵遅れの少女の無垢な眼差しが印象深い「千鶴」が特に良かった。2024/01/07
H2A
16
『バンドの休暇』いわゆる若書で小難しい表現がちらほらとあるが、これは良かった。『千鶴』は知恵遅れの少女への恋心を描いた作品だが、美醜が交錯して美しい。これが集中のマイベスト。『最初の秋』は家族という血のつながりを否定して、本来他人である妻との今後を予感する。これも良い作品集だった。2016/11/06
くさてる
8
50年近く前の作品が収められた短編集。古めかしい退屈した若者のお話かと思ったら、どうもそれだけじゃない不穏で豊かな感じが文章のあいだからどんどんかもし出されてきて、はらはらしながら読み進めていった。戦後に一瞬現れた盛り場の空気、終戦後に立ちすくむ家に残った蒸発した毒薬の香りを感じたような気持ちになった。良かったです。2014/04/09
本を読むのは寝室派
6
人の内面「心」の動きを追うストーリーの中では「最初の秋」が一番好きだった。「千鶴」は内的要因以外にも、一般的な小説面があり、わかりやすく面白かった。しかしながら、表題にもなっている「安南の王子」だけは、読解力不足の為、何を読んでいるのか、「舞台も、主人公の心の流れ」もストーリーにそって読む事が出来ず、読み終えた後、全く話の流れ、結末の意味がわからずじまいでした。2022/10/13
トーマ
6
著者自身の体験や経験、感じている事や思ていることがそのまま物語に染み込んでいるのが伝わってくる。その人しか書けない物語が好きなので、もっと山川方夫には生きていて欲しかった。若い頃に父親を亡くした際に感じていたことが、自分と全く同じだったのでさらに共感した。日常の中に強制的に入り込んでくる戦争や政府や世界の影響があっても、どんな時代にも青春は存在しているのだと思う。2021/02/27