出版社内容情報
自殺に失敗し、苦しむ弟。彼を殺して島送りにされる喜助に、罪はあるのか―。人間のもつ不可思議、尊厳を見つめた表題作。他「阿部一族」「山椒太夫」「寒山拾得」など。(解説・川村 湊/鑑賞・林 望)
内容説明
島送りの罪人を乗せ夜の川を下る高瀬舟。しかし実の弟を殺したその男の顔は晴れやかに、月を仰ぐ目は輝いていた。なぜ…。精美な日本語で鴎外で描く人間の不可思議。これは安楽死をめぐる永遠の矛盾として現代人の中にも生きている。表題作の他「阿部一族」「山椒大夫」「寒山拾得」など後期の代表作を収録。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ちさと
40
喜助は弟殺しの罪で遠島を言い渡された罪人であるが、利益や憎悪のための殺人ではない。自殺を図って苦しんでいる弟の嘆願によるものである。後半は安楽死を日本で最初に扱った小説として有名で、国語教科書への収録もある短編。でももし喜助の犯行が本当は意図的なものだったら。だって喜助の態度は少し不気味。大切な肉親を失った後のものとは思えない。自分の話術で命拾いできた喜びと満足感からくる余裕が醸し出ている。サイコパス的な香りが船と一緒に漂っているような作品でした。2018/10/18
にし
39
罪人なのに清々しい。罪に伴う罰って世間の為にあるのかもと思わせる。足るを知るは富む。それを罪人で知る皮肉。人や社会の複雑さは今も昔も変わらない。2014/10/03
❁Lei❁
38
大学のゼミで使用し読了。表題作「高瀬舟」は殺人の罪で遠島を申し渡された喜助とそれを護送する庄兵衛の物語です。弟を手にかけた喜助の行為は本当に罪なのか、お上は絶対的な正義でありその判決に間違いはないのか。この封建制における正しさについては、鴎外の歴史小説に一貫して問われ続けます。その上、日本の精神の根底にあるとされる武士道や、明治の世にはまだ浸透していなかった自己犠牲の精神に関する事柄も重なり、考えたらキリがないほど深淵な倫理道徳の問題が織り込まれている作品群でした。2021/11/29
33 kouch
36
庄兵衛が喜助の話を桁を違えながら自分と比較する。自己啓発本のようなお話だった。満足の設定。人生は相対の中でしか感じられない。同心と罪人が月あかりのなか高瀬川を渡ってゆく情景がとても美しい。2023/02/03
ちくわ
35
【高瀬舟】新潮の100冊に多選されていると知り読む。短編なので直ぐに読了…安楽死の是非か? 法と道徳なる二つの理念、平素は互いに寄り添うが、時に真っ向から対立もする。この世に絶対的な価値観が無い事の証左なのだろう。少し前に『コリーニ事件』という映画を観たが、これも法と道徳がテーマだった。 余談…ポリコレ棒を振り回し、気に喰わないヤツをブッ叩く『(自称)正義マン』が目立つようになってきた。本音と建前の狭間は広く深い…SNSの発達で顕在化したと推察。もし喜助がこの令和に生きたのなら、どう評価されたのだろうか?2024/07/30