内容説明
思いがけない隋の敗戦・滅亡は、聖徳太子にも大きなショックを与えた。太子は政治の第一線を退き、思索と著作に心を傾けていった。仏教経典の註釈書『三経義疏』をはじめ、わが国初の歴史書『天皇記』『国記』の編纂など、精力的な著作活動を続ける太子だったが、その立場は次第に孤立を深め、その心は絶望と虚無におそわれていく…。
目次
第4部 理想家の孤独(著作者への転向;『勝鬘経義疏』の思想;『維摩経義疏』の思想;『法華義疏』の思想;隋の滅亡;啓蒙史学の誤り;“日本”の成立;太子の最期;一族の滅亡)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
井月 奎(いづき けい)
41
山ほどある言いたいことのうちひとつだけ。太子は『三経義疏』という仏教経典の注釈書を著しており、その中で「勝鬘経義疏」を一番先に仕上げて、橘寺において講義も行っています。「勝鬘経義疏」は女性の往生を説いた経でもあり、それは女帝である推古天皇に対する優しさも多く含まれているのだと思います。この若い摂政と有史以来初めての女帝は甥と叔母の関係で、甥と叔母と言うのは一種独特の愛情が通い合うことがあります。この若くて才気あふれる甥は女帝である叔母への叱咤と愛情をこの義疏に込めたのでしょう。私はそこに太子の心を見ます。2020/05/03
鈴木貴博
2
最終第四巻は二経講読と三経義疏、隋滅亡、津田左右吉説批判と文献・伝承の再評価、”日本”の成立、太子の死の謎、太子子孫の滅亡。全巻を通じ、世界の動きの中に位置付け、文献と伝承と考古学的成果などを踏まえた梅原先生の解釈による聖徳太子像を堪能。非常に面白く腑に落ちた。間もなく太子1400年遠忌。2020/11/14
Tai
1
皇帝でありながら日本を仏教国とすべく、自らを菩薩とした太子。飢えた民に遭遇し、施すも死んでしまう。手厚く埋葬させるが民を救えない国の王、自分自身を責め、大いなる矛盾を背負い絶望に落ちる太子。政治家としては危うく繊細すぎ、信頼を失っていく。 それにしても、描かれる当時の政治は男女問わず嫉妬、妬みが渦巻きそれに対処できないものが失脚していく様は、いつの時代も変わらないというか。 著者は6年かけて執筆したというが、熟慮に熟慮を重ねて新たな気付きが得られて行く。謎が解けたときの爽快感が良いです。2019/03/30
ギトン
0
3か月ほどかかって、ようやく4冊読み終わりました。4巻の梅原氏の解説に触発されて「法華義疏」も紐解き、知的興奮をもって読み進めることができました。 史書編纂に関するところは、ちょっと違うと思いながら、それでも飛ばさずに読破。歴史的事実としてはともかく、著者の歴史観としては納得して受け止めた次第です。 太子没後の上宮王家の運命。やはり歴史問題としては難しい。今後の勉強の手がかりとしては良かったと思います。2022/06/11