内容説明
1960年、チェコのプラハ・ソビエト学校に入った志摩は、舞踊教師オリガ・モリソヴナに魅了された。老女だが踊りは天才的。彼女が濁声で「美の極致!」と叫んだら、それは強烈な罵倒。だが、その行動には謎も多かった。あれから30数年、翻訳者となった志摩はモスクワに赴きオリガの半生を辿る。苛酷なスターリン時代を、伝説の踊子はどう生き抜いたのか。感動の長編小説、待望の文庫化。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
488
プラハのソヴィエト普通学校の舞踊教師オリガ・モリソヴナ。反語法を駆使する彼女は、年齢も不詳なら過去も謎に包まれていた。20年後に志摩(主人公)がそれを解き明かしてゆくのだが…。フィクションではあるが、これは著者の米原万里さんにとっての青春の熱い回想記である。そして同時にそれは「ソ連とは何だったのか?」を問う総括記でもあった。彼女は自身の体験や伝聞を客観化する必要があったのであり、巻末の参考文献群はそのためのものである。本書を経て、同世代の、そしてオリガたちの世代をも含むソ連の人々に真に連帯できたのだろう。2016/09/08
absinthe
264
オリガ=モリソヴナは口が悪いけど皆に愛されたダンスの先生。でもその来歴には悲しい秘密があった。ラーゲリ、クラーグ。血も凍るような恐ろしい強制収容所。米原万理さんの自伝に近いと思われる、実話エピソードから作られたフィクションだが、その描写の上手さから共産圏の生活の裏側の恐ろしさが伝わる。少女時代の微笑ましいエピソード、スターリン体制化の息苦しい現実、ソ連と日本の教育の違いなどさまざまなエピソードが織り交ぜられながら、スリリングに核心に近づいていく。 2020/09/18
buchipanda3
142
著者のプラハの学校時代を描いた「嘘つきアーニャ…」の別版とも言える小説。こちらもがっつりと読み応えがあり、魅力溢れる物語を堪能した。中身はかつてのソ連の体制が絡む話で重い内容も多い。特に中盤以降はあまりにも理不尽な悲しみに呆然。それでもこの本はそれに挫けない力強さがあった。それが読み手に乗り移ってくる。当時、子供の自分には見えていなかった大切なものを追い求めるシーマチカの姿も印象的。オリガやエレオノーラの告白に強く胸を打たれたが、改めて授業の様子を読み返すと、人が持つ尊いものを感じずにはいられなかった。2021/05/06
ゆいまある
129
こんな面白い本を今迄読まずにいたとは。寝る間も惜しんで昼寝する勢いで読み耽った。米原さんがプラハで出会った人々がモデルになったそれは壮大な物語。オリガ・モリソヴナは70過ぎだがセクシーで凄く強い。だが彼女には悲惨な過去があり(ここからはフィクション)、その謎を解く内にスターリン時代沢山の人が殺され、ラーゲリ送りにされた歴史が出てくる(勿論物凄く調べて書かれていてその熱量たるや)。引き裂かれた恋人、引き裂かれた親子、ウクライナを追われてラーゲリで死んでいった人達。泣いたし笑った。もっと書いて欲しかった。2022/03/09
エドワード
126
1992年、ソビエト崩壊後のモスクワ。30年前にプラハのソビエト学校で少女時代を過ごしたシーマチカ(弘世志摩)が、当時のダンス教師、オリガ・モリソヴナとフランス語教師、エレオノーラ・ミハイロヴナの過去をたどる。翻訳者の志摩は米原万里さん自身だ。楽しい想い出に満ちた学校生活。微かに差した影は何だったのか?アルジェリア、バイコヌールという地名になぜ二人は怯えたのか?ペレストロイカの成果で、二人が収容所にいたことが判る。収容所生活の余りの壮絶さに慄然、文化芸術の力に驚き、自由のかけがえの無さに気づかされる物語。2017/05/06
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- 和書
- 刑法に関する間接正犯理論