内容説明
戦争下の夏休み、父親といっしょに込み合う列車に乗り込んだ少年は、急な歯痛に襲われ、父に訴える。父は手にしていた祖父譲りの扇子を引き裂き、楊枝代わりにと差し出した…(「蘭」)。日常の何気ない生活のひとこまから浮かび上がる人間存在の深さとかなしさを的確に描いた短篇11作品を収録。
著者等紹介
竹西寛子[タケニシヒロコ]
1929年広島県生。早稲田大学文学部卒。編集者を経て評論家、小説家に。「往還の記」で田村俊子賞、「式子内親王・永福門院」で平林たい子文学賞、「兵隊宿」で川端康成文学賞受賞。日本芸術院会員
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感想・レビュー
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藤月はな(灯れ松明の火)
77
「神馬」は社会に出た人なら色々と精神的に来る作品だと思います。自分のやっていたことが本来の性質や可能性を狭め、矯めていた事を知った、純真無垢でいられなくなった瞬間は哀しくもどこか、鮮烈な美しさを内包している。キヨシ少年シリーズの中で一番、印象的だったのは「虚無僧」。母が夜中にしている事の不思議さやその謎めいた行動によって掻き立てられる一種の艶めかしさ。そこに虚無僧が投げかける視線の不気味さが合わさる事で幼き日の理由も無き恐怖を見事に表現しているから。描かれている物が最後になるまで暈された「湖」も素晴らしい2018/03/27
こばまり
42
静寂の中に込められた情感とでも言おうか、類似する作風、スタイルを持つ作家を他に知らないように思う。水流に磨かれて滑らかになったガラス片をそっと拾い上げ、掌の中で慈しむような読後感。2016/02/27
双海(ふたみ)
30
短編集なので空き時間に1作品ずつ読みました。戦時中の日常を扱った作品が好き。ちょっとこれは戦争を経験していない人間には書けそうにないなぁと思いました。2015/07/26
雪丸 風人
12
短編集。戦時中の少年の目線で描かれる作品群に惹かれるものがありました。特に、礼儀正しい出征軍人との短いかかわりの中で主人公の心境に変化が生じる『兵隊宿』が味わい深かったです。傷病兵や戦没者墓地が彼らの目に入らないように願う少年の想い。真っ直ぐですね。『小春日』では、羽振りのよかった叔父の落ちぶれた姿を前にした少年が、自分もいつか得体のしれないものと力比べをしなければならないと予感する瞬間が印象的でした。後半の作品群は格調高く難読気味。巻末の著者の被爆体験は興味深かったです。(対象年齢は14歳以上かな?)2020/10/03
コーデ21
8
竹西寛子さん初読み♪ 失礼ながら、お名前すら全く存じ上げなかったんですが…みずみずしい感性と描写に魅了されました(〃∇〃)「兵隊宿」「蘭」「神馬」など、どれも戦争時の少年の不安や息苦しさなど鮮明に描かれており、読んでるコチラまでやりきれなさに囚われるほど。派手さはないものの、余韻深い作品ばかりでした☆ 他の作品も読んでみたいです。2017/01/10