内容説明
1986年。高校卒業後、カメラマンを目指し、長野から東京へ出てきた「僕」は、写真学校に入学する。だが、センスや才能に恵まれた同級生たちに囲まれ、自分の写真を見つけられない苛立ちを抱えていた。故郷に残った友人への複雑な想い、いくつかの淡い恋、そして、見えない未来への焦り。迷いながら、立ち止まりながら、少しずつ歩んできた日々をたどる、切なくて眩しい自伝的青春小説。
著者等紹介
小林紀晴[コバヤシキセイ]
1968年長野県生。東京工芸大学短期学部写真科卒業。新聞社でカメラマンとして勤務後、95年「アジアン・ジャパニーズ」でデビュー。97年「DAYS ASIA」で日本写真協会新人賞受賞
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感想・レビュー
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S.Mori
12
写真家の小林紀晴さんの自伝的な小説です。きめ細かで繊細な文章が心に沁みます。少年から大人になる時の焦りや切なさ、憧れの気持ちが手に取るように描かれていて自分の青春時代のことを懐かしく思い出しました。バブルに向かいつつある活気のある東京の雰囲気も活写されています。小林青年は写真にそれほど熱意があるわけではないのですが、自分の撮ったものが人の心を動かすことを知って、少しずつ写真を撮るに熱心になっていきます。好意を持った女性とのほろ苦い思い出も描かれて、どちらかと言うと落ち着いた物語に花を添えていました。2019/12/24
shimadzu
8
写真を撮っている人に勧められて読む。話のスパイス的にカメラや写真が絡んでくるかと思いきや、タイトル正しくがっつり写真の学生のお話だった。諏訪の地の様に、悠然とした文章。何気ない心情の連なりが、こうも胸に刺さるのか。どこか一歩引いた所で自分を見ているような、そんな主人公の姿が凄く好き。自分自身も銀塩写真を始めたばかりで、この時期に読めて良かったと思う一冊。2012/06/18
れこやん
6
小林さんの Asian Japanese (旅人のインタヴューエッセイ) は20年前に大好きで読んでます、普通より純粋性を残してる旅人が写っているいい本でした。今回は自伝小説で著者自身が純粋な人だと感じ読んでいて些細なエピソードが繊細で味わい深かった、自分の大学生活とはかなり違えども共感する部分も多く大学生活を懐かしく思いました。私も大学の授業は出なかったけど部室には入り浸ってたがもっとのんびりのほほんとしてました、著者のほうがしっかり生きていた。完成度はまあまあですが、一部の人の心を強く掴みそうな話。2018/03/22
ますのり
4
自身があまり知識も無く学校に入り、他の学生とは違いカメラマンに向いていないと思ったからこそ他の学生よりも早く就職活動をし、サラリーマンのカメラマンになるというくだりがやけに心にグサリとくる。2012/03/28
薫風堂
4
「東京に来て冬の日だまりという言葉の意味を初めて実感として知った。諏訪の冬はおそろしく寒く、日だまりというものは存在しなかったのだ」(231) 写真家小林紀晴さんの自伝的小説。過剰な演出がない。煽るような言葉もない。彼が撮る写真と同じように、静かに訴えかける抑制された文章。言葉を持っている写真家、なんとも羨ましいことだなぁ。すごく気に入っている青春小説のひとつです。2010/09/15