内容説明
夜更けの留置場に現れた、その不思議な老人は六尺四方にしか聞こえないという夜盗の声音「闇がたり」で、遙かな昔を物語り始めた―。時は大正ロマン華やかなりし頃、帝都に名を馳せた義賊「目細の安吉」一家。盗られて困らぬ天下のお宝だけを狙い、貧しい人々には救いの手をさしのべる。義理と人情に命を賭けた、粋でいなせな怪盗たちの胸のすく大活躍を描く傑作悪漢小説シリーズ第一弾。
著者等紹介
浅田次郎[アサダジロウ]
51年東京生。「地下鉄に乗って」で第16回吉川英治文学新人賞、97年「鉄道員」で第117回直木賞、00年「壬生義士伝」で第13回柴田錬三郎賞受賞
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
三代目 びあだいまおう
290
『その老人が雑居房にやってきたのは、就寝時刻をとうに過ぎた夜更けだった』大正昭和平成を生き抜いた老人が拘置所に入れられた半端な小悪人や看守を相手に語り出すは己の若かりし頃。天切り松と呼ばれた松蔵は、悪党どもの中では伝説の義賊『目細の安吉一家』の新入りだった。親分や兄貴達、姐さん等の粋で鯔背で、義理人情と心意気を大事にする江戸っ子義賊の胸のすくような格好良さ。大江戸の華やかさの陰で、貧しく倹しく暮らす人々の闇を、まさに一隅を照らすかの如く彩る光。男に生まれたからには近づきたいものだ!姉の一章が哀しい‼️🙇2019/08/26
海猫
260
べらぼうな上手さの連作短編集。各短編独立して読ませるし、エピソードが重なるにつれ義賊一家の面々が大きく浮き上がる。大正モダンな雰囲気がお洒落であり、格調あって生きの良い文章が効く。きっちり時代に没入させながらもすべては老人の過去語りという仕掛けが、ノスタルジックであり時に何とも言えない切なさを醸し出す。抜群のフォーマットで抜群の芸が発揮されている。でも時折、上手いだろ?みたいな著者のドヤ顔がすけて見えるのが浅田次郎作品の困ったところ。しかしそれよりも短編としてのキレはやはり素晴らしく、続巻も読んでいこう。2017/03/19
zero1
191
講談の世界そのまま。浅田節が炸裂し作品世界に引き込まれる。留置場に来た老人が語る物語。9歳で有名なスリ、目細の安吉に弟子入りした松蔵。盗人なのに高いプライドを持ち人情を忘れない一味。金持ちから奪った金を貧民に使う。彼らは銭金より大切な物を追い求める。登場人物がすごい!山形有朋、松方正義、西園寺公望、原敬、寺内正毅、そしてあの文人も登場!松の姉、おひさの話は「みをつくし料理帖」を思い出して泣ける!歴史小説が苦手な人にこそ推薦したい。レビューが406件しかないのは残念!ピカレスクロマン全開のシリーズ全五巻。2019/04/30
佐々陽太朗(K.Tsubota)
147
「たかが盗っ人風情が偉そうなことを云うんじゃねぇ」と言ってしまえばそれまでだ。黒にもいろいろある。自分が白いといって黒を嘲笑う者は、自分が混じりけのない白ではないことを知りはしない。赤貧洗うがごとき身の上にあって、身を穢し、悪に手を染めたとしても、心のあり方だけは真っ白でありたいと願う心が切ない。苦界に身を落とし、運命にあらがえないと覚悟した人間が命を懸けてとおす最後の意地、滅びの美学をよっく耳をかっぽじって聴きやがれ。ピカレスク・ロマンここに極まれり。2015/11/11
KAZOO
138
浅田さんのこの作品は3回目です。いつ読んでもエンターテイメントとして楽しませてくれます。長さがちょうどいいのでしょうね。それでいていかにも実在のようなわき役たちが出てきての楽しみもあります。読んでいて大正時代の東京の様子などがよくわかるような感じです。2017/11/03